出版社内容情報
「この小説の意図は,完全に美しい人間を描くことです.この世にこれ以上むずかしいことは,ありません」――素直さと純粋さ,そして深い共感能力と愛の心をもった主人公ムイシュキン公爵は,すべての人々から愛される.さまざまな情念の渦巻く現実の世界にあって,はたして彼は,和をもたらすことができるだろうか.
内容説明
完全に美しい人間を描くという、作家が自らに課したもっとも困難な作業。ムイシュキンら四人の愛はもつれ、物語は悲劇的終局へと向かう。―「はたして、私の『白痴』は現実ではないでしょうか、しかも極めてありふれた現実ではないでしょうか!」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
315
小説の構造はいたってシンプルである。徹頭徹尾に静的なムイシュキンに対して、ラゴージンはきわめて情熱的、情動的である。ナスターシャとアグラーヤもまた様々な意味で対照的だ。ムシシュキンは結局二人の間を揺れ動くのであり、主体的に行動するのはやはり女性たちだ。二人の女性たちの迎えた結末は何ともやるせない。現代のキリストたるムシュキンは二人を共に救うことはできなかった。結果からすれば、むしろ悲劇に追いやったとさえ言える。では、彼は二人の生の悲しみを一身に背負うことができたのか。それもまた不可能だったのではないか。2017/08/12
藤月はな(灯れ松明の火)
83
4部から未読。こんなオチになるとは思ってもいなかったので心の中はツッコミの嵐が吹き荒れました。肺病のイッポリートによる死ぬ死ぬ詐欺の下りはイワンを思い出した。また、公爵やアグラーヤへ結婚を焚きつけるもラゴージンから何度も逃げ出すナスターシャに「こんなに想ってくれるのはラゴージンだよ!質の悪い博愛主義の公爵なんか、やめときなよ!」と何度、叫んだか。そして公爵はラゴージンへの釈明も糾弾もすることなく、白痴状態へと戻る。公爵は責任を果たさずに済んだけど、残されたラゴージンの母親やアグラーヤは溜まったものじゃない2021/03/06
syaori
70
下巻では、人々の思惑が絡まるなか善良で善を志向する青年が破滅するのを見ることになります。本作の概観は、何度も言及される『死せるキリスト』の絵の印象―自然が「無限に貴く偉大な創造物を」「打ち砕き」「のみこんでしまった」―を想起させますが、その意味で本作は己の道を知らなければ理解もできない人間の欺瞞や卑しさ、弱さ、そしてそれが「ひとりの卓越した人間」を破滅させる様を赤裸々に描くことで、その絵にあったある大きなもの、偉大な創造物をも超えるあの高遠なものに対する作者の「美であり祈祷」だったように思いました。2024/11/01
みや
23
何とか最後まで読了したけれど、やはり私には面白さが分からなかった。恋愛がメインと思いきや、下巻は脇役たちのドタバタ劇が多い。ただどの人も何かしら常識外れなので、言動に理解できない部分がほとんどだった。コーリャ君だけが唯一の癒し。 後半は4人の恋愛に決着がつく。公爵、ナスターシヤの二転三転する言動は意味不明だし、アグラーヤは情緒不安定すぎる。終わり方は悲劇的で美しいけれど、そこに至るまでが完全に置いてけぼりだった。ラゴージンは最後まで好い男。 合う合わない云々より己の理解力不足を思い知らされた一作だった。2016/06/13
那由田 忠
20
読むために読んだ。ということでこんなに辛かったのは久しぶり。一体何なんだこの展開は、バカバカしくてつきあいきれないという感想。『カラマーゾフ』とは全く異なる悲惨な小説、というのが私の評価。まあたくさんファンがいるみたいなので申し訳ないけど、『罪と罰』後にこんなものを書いたのが信じられない。でも、次は『悪霊』を読みます。ドストエフスキーの迫力を信じて。2018/02/25