出版社内容情報
激しく変貌する時代に,異った二つの世代に生きる父と子の姿を描く.ロシアにおける農奴解放令発布の年,一八六一年に書かれたツルゲーネフの代表作.発表と同時に旧い世代は社会秩序を破壊する危険思想と評し,若い世代は自分達の戯画を主人公に見た.しかし主人公バザーロフは今日なおニヒリストの典型として生きている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
絹恵
22
人間は似通った臓器や循環器系を持って身体を構成しています。それなら人間の違いというのは心ひとつで、このひとつとして同じものがない心を通わせるには、時に削ることで触れることが出来るものもあるのかもしれません。でも出来ることなら拗らせたくはないけれどこれもまたひとつの在り方で、修復された一枚の幸福な風景画を鑑賞したような気持ちになりました。2014/05/07
gollum
10
神西清訳チェーホフの「かわいい女」、ガルシンの「信号」が好きだ。露文なら神西清、仏文なら杉捷夫と名翻訳家の追っかけたものだが、どうも最近の若い人には、この”旧い翻訳”にちりばめられた拡張高い古き良き日本語が障壁になるようだ。”先生、この『父と子』の翻訳の文章はわかりませんっ”と、絶滅危惧種の文学少女(高3)に言われたのは、1951年の新潮文庫 米川正夫訳。年代はそう変わらないが岩波文庫(1959年)のこれを貸すと”おもしろかった!”という感想と共に返ってきた。さてさて彼女は神西訳「はつ恋」を読めるかな。2013/08/21
ちゅん
3
既存の価値観(既存の権利、貴族社会)に疑問を持ち、打ち砕く考えを持つ若者が出てくるのはワクワクしますね。バザーロフは冒頭では徹底したニヒリストですが、アンナを知り合ってから心を乱され、ニヒリストの限界を知ってしまいます。物語の最後はネタバレで部分的に伏せますが、バザーロフが人間くささを見せてくれます。この点はほっこりしました。2017/05/14
刳森伸一
2
あらゆる既成概念を否定するニヒリストであるバザーロフ、彼を慕うがニヒリストの境地にはたどり着けないアルカーヂイ、そしてその親たちの様々な価値観の衝突。最も力強いのはバザーロフだが、彼もまた時代に翻弄されている人間の一人として描かれているのではあるまいか。2013/06/14
茅野
1
対比の描き方、ニヒリストの抱く矛盾、諧謔とこの小説自体の持つ歴史的価値、純粋な面白さ。2018/06/26