出版社内容情報
十二月党の蜂起が敗北に終ったあとロシアは厳しい反動の季節をむかえる.作者は時代の重圧にうめく十九世紀三十年代の知識人たちの姿を,行動と懐疑の間にひきさかれた一人の男ペチョーリンに形象化した.英雄とは,時代の犠牲者に他ならない.二十七歳にして決闘でたおれた反逆詩人のもっとも完成度の高い散文作品.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイス
82
初レールモントフ。解説の「唯一屈伏しなかったロシア作家」との評がまず印象に残る。詩人の書く散文はプーシキンもしかりだが、簡潔なのがいい。無駄な装飾がないというか。どこまでも虚無的な主人公ペチョーリンが、ヴェーラからの決別の手紙を読んで度を失い馬を駆け道半ばで挫折する下り、ペチョーリンにもこんな動揺があった点を見逃してはならないと感じた。魅力的な主人公だけに、恋愛だけではないもっと広範な格闘を見たかった。27歳で決闘で斃れるとは余りにも生き急ぎだ、もっと彼の散文を読んでみたかった。構造が巧みなのも驚異的。2025/08/11
やいっち
37
レールモントフ は、27歳で決闘で死んだ。早熟の天才だった。反権力の姿勢を貫き、政府に警戒され、迫害され、僻遠の地で軍務につく。帝政ロシアで時代閉塞の状況にあり、将来への望みを持てない。 乗馬も射撃も得意な主人公のペチョーリンは、己の道を見いだせない。かといって権力や出世の道に活路を見出す柔軟さなど皆無。何かが彼をむしばむ。愛も恋も出世も彼の心を満たさない。自らの命をもてあそぶかのように、親友との銃による決闘の場に立つ。親友を射殺してしまう。こんなはずじゃなかったのに。2019/02/10
syaori
30
若くして人生に倦む主人公ペチョーリンにはオネーギンに通じるものがあるように思いました。彼がオネーギンと違うのは「おれには高い使命があったのだ」「だが、おれにはこの使命の察しがつかず…」と独白するように自身の力の向けどころが分からない焦燥感、無力感を持っていることだろうと思います。およそ英雄らしくない彼が「英雄」足るのはこの、力を持ちながらも英雄になれないという悲劇性によるのではないでしょうか。そんな現代の英雄の姿にやるせなさも感じるのですが、「情欲の誘惑にひきつけられ」てしまう彼にもどかしさも感じました。2016/08/25
ラウリスタ~
15
ちょっとばかしとんでもない傑作を読んだような気がします。ぶっとんでいます。ロシアってなんでこんなに豊穣なのか。ロシアの悩める青年達のスケールの大きさは異常。西欧文学ではとっくの昔に消滅した人物が登場する。あえて比較するならドンキホーテの系譜か。それにしてもスケールの大きさが印象に残る。まだ20代にしてこんな馬鹿げた作品を残したとは恐れ入る。2011/04/10
アトレーユ
13
『死せる魂』のチチコフと『オブローモフ』のオブローモフを足してドライアイスにした感じ?(笑) 人生の目的ってなんだろう…そんなものなくても謳歌できるんだろうけど、この主人公・ペチョーリンは、漫然と生きる見本、みたいなものか? おもしろくはない(笑)が、考えさせられる一冊だった。2015/12/29