出版社内容情報
本書は訳名をつけるなら「豪勇任侠の郷士」とでもいおうか.時は17世紀の初頭,人情風俗ともいまだルイ大王の古典的合理主義に統制されない自由奔放な世界である.尾羽うち枯して,赤貧の館にくすぶっていた若き男爵が,旅役者の群れに身を投じて「キャピテン・フラカス」の芸名を得,一座の女役者と結ばれるまでの波瀾重畳のメロドラマ.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミコヤン・グレビッチ
3
いまどき、いいオトナが貴族やお姫様の出て来る古風なロマン派小説を読んで面白がるってどーなのよ、と言われるとぐぅの音も出ない。だけど、ここにはシンプルで気負いのない「物語の楽しみ」があり、読み手をよろこばせる熟達したスキルの発現がある。前衛的な小説も嫌いじゃないし、むしろそのあたりに関してはチャレンジャーを自認してもいるが、いつでもこういう場所に戻って来られるという安心感があればこそ、「冒険」に出かけて行くことができるのだ。だから、何ら恥じることなく、堂々と胸を張って言おう。「キャピテン・フラカス、最高!」2020/07/08
Fumoh
2
下巻では、恋のドラマはクライマックスに。イサベルは誘拐され、望まぬ結婚を迫られる。そしてイサベルの高貴な出自が明確に明かされる。それを助けにいくシゴニャック……という、(下層階級の仲間たちが活躍する以外は)極めて伝統的な騎士道物語となるが、このような俗っぽい筋書きでも、そのシンプルさだけが際立ち、月並みさは意外と感じない。それはゴーティエの華麗なレトリックのなせる業だろうと思う。これを読んだパリ民衆は、喝采しただろう。2024/03/25
ゆり
2
零落した貴族シゴニャックが、崇高な魂とたぐいまれなる勇気を持って、幾多の至難に耐えつつも、真実の幸せと愛を手にいれるお話。ゴーチエならではの美しく細やかな情景描写、また豊かな心理描写には心を寄せずにはいられません。加えて、彼には稀なユーモラスな描写が多々あり、時に微笑みながらページを捲らせてもらいました。こんなにも心をときめかせるお話は、早々巡りあえるものではありません。一生かけて大事に読みたいと思います。2011/11/17
迦陵頻之急
1
遂にヒロインが攫われ敵の本拠地の城で最終決戦。面白過ぎる敵の一味達、主人公の仲間の多士済々な旅芸人達、戦闘少女シキタまで加わっての大立ち回りの末、機械仕掛けの神ならぬ大公様が降臨。そこでヒロインの生い立ちと悪役公爵との意外な関係が明らかに…そして、ローマ喜劇かシェイクスピア喜劇かという超古典的な落ちが!下巻の後半部は丸々「そしてみんな幸せに暮らしました」 短編集での怪奇幻想味とは違った方向で、変わらぬ多彩な修辞を駆使したサービス満点の長編でした。2024/01/19
syaori
1
絡まった糸は解きほぐされて大団円です。ヴァロンブルーズ侯爵は、イザベルとシゴニャックの良き友人となり、我らが主人公たちはめでたく結婚します。しかし良い事ばかりではなく、何度かイザベルを助けてくれた少女シキタには恋する人との別れがやってきます。傷心の彼女はイザベルを頼るのでした。ゴーティエ先生、そこもハッピーエンドにしましょうよ。ほかにも芸人仲間はとか、パリの無頼者たちのその後はとか、いろいろ気になることはありましたが、それもこれも登場人物たちがみんな魅力的だったからでしょう。楽しかったです。2015/10/27