出版社内容情報
あらゆる偏見や旧習を打破し,自然や人間を事実として観察分析し,実証主義的・科学的な文学を創造しようとしたゾラは,本書において「大地」と同様,人間の獣性を白日の下にさらけ出した.バルザック,フローベールのリアリズムをいっそう徹底させ,仮借するところなく人間性に対決するゾラの姿は,今も読者の共感を呼ぶであろう.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
284
これ自体で自立した小説だが、同時にルーゴン・マッカール叢書の第17巻に位置付けられる。主人公のジャック・ランチエは『居酒屋』のジェルヴェーズの息子である。最初はルボーが主人公かと思ったし、ルボーもまた「獣人」の資格は十分に満たしている。書かれたのは1890年であり、まさに世紀末なのだが、この小説にはあまりその影を落としてはいないようだ。むしろ、ロマンティシズムを廃し、リアリズムに徹することこそがゾラの選んだ方法なのだろう。また、本書では鉄道が大きな役割を果たすし、それは隠喩的な働きをもしていそうである。⇒2024/09/13
遥かなる想い
149
19世紀のフランスの汽車の風景が 印象的な物語である。 登場人物の誰もが持つ、異常な性格が 特徴的で、作品に彩りを添えている。 機関士ジャックが目撃した殺人から 始まる愛憎劇は 旧漢字の影響からか、 まるで 演劇を見るようで 新鮮である。 上巻は 裁判官殺人とその裁判までだが、 ジャックとセヴリーヌがどうなっていくのか、 下巻の展開に期待。2018/12/12
藤月はな(灯れ松明の火)
80
残酷なまでに人間の現実社会を描く自然主義作家、エミール・ゾラによる『罪と罰』的ミステリー。鉄道トリックもあるよ!本作は『居酒屋』、『ナナ』の系譜を継ぐと言うことだそう。筋書きは三面記事にちょっと、載るような出来事なのにそこに人間の機微を読者に想像させる余地を与えながらも肌理やかに描いているのが凄い。愛する妻が既に性的虐待を受けた上で自分に嫁がされたと聴いて妻を殴りつけるルゥボー氏に愕然。彼の場合、妻を愛しているのではなく、自尊心が予想もしない所で貶められた事への怒りで殺人を決行したのがリアルすぎて厭だな2017/08/25
yutaro sata
23
獣たちは当然の罰から上手いこと逃れ、風に吹かれて気持ちよさそうである。 後半へ続く。2023/05/31
LUNE MER
21
「居酒屋」「ナナ」を含むルーゴン・マッカール叢書のひとつで、本作の主人公であるジャック・ランティエは系図的にはナナの兄にあたる。(なお、他の二人の兄弟はそれぞれ「制作」と「ジェルミナール」の主人公。) しかしこのジャック、女の肌を見ると殺害したくなる衝動をギリギリ抑えて何とか生きてきたというサイコキラー予備軍というとんでもない奴。偶然に他人の殺害現場を目撃し、その犯人の妻に恋してしまう(=殺害衝動を抱いてしまう)という状況設定自体がクールな展開。ゾラって凄い作家だわ。2021/06/05