出版社内容情報
ハインリヒ・マンの名を世界に知らしめた小説。「ウンラート(汚物)教授」とあだ名される教師は、生徒を追いかけ入った酒場で美しい歌姫の虜となる。転落していく主人公を通して帝国社会を諧謔的に描いた本書は、マレーネ・ディートリヒ出演の映画『嘆きの天使』原作であり、ファシズムを予見した作ともされる。
内容説明
ハインリヒ・マンの名を世界に知らしめた小説。「ウンラート(汚物)教授」とあだ名される教師は、生徒を追いかけ入った酒場で美しい歌姫の虜となる。転落していく主人公を通して帝国社会を諧謔的に描いた本書は、マレーネ・ディートリヒ出演の映画『嘆きの天使』原作であり、ファシズムを予見した作ともされる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
62
接頭語(ウン)を付けると下品な意味合いの名になる為、学生たちから揶揄われ、街にも周知されているラート教授。周囲から弄られ続ける為にひねくれた彼は揶揄った生徒を罰そうと躍起になるもそれが逆効果だとは気づいていない。更には嫌がらせを行ったにも関わらず、卒業生にとってはそれは「青春の一頁」と捉えられるという「苛めっ子は自身が行った苛めを被害者以上に重くは捉えていない」という真実を証明するという皮肉。独り相撲の彼の転機となったのは、親の地位の為に恵まれているローマンの弱みを捕まえようとした先でローザに出逢った事だ2024/08/01
NAO
56
生徒に対してとんでもない暴君ぶりを発揮していたウンラート教授が生徒たちをとっ捕まえるために飛び込んだ楽屋で踊り子に出会い、我が身を破滅させるまでが描かれている。他者を支配せずにはいられない人物が、恥も外聞もまるで気にせずなぜ一回り以上年下の踊り子に嬉々として服従してしまうのか。ウンラートがフレーリヒにのめり込んでいくさまは町中の誰をも狂乱の渦に巻き込んだが、ただひとり冷めた目でそれを見ているローマンは異彩を放っている。物語の表の主人公はウンラートだが、陰の主人公はこの出番の少ない少年なのかもしれない。2024/09/01
セロリ
41
ウンラート教授は、学生の上に君臨する暴君である。罰を与える隙を見せない学生ローマンに固執するウンラートは、彼のノートから女芸人フレーリヒとの関係を疑う。フレーリヒを見つけたウンラートは、心を奪われる。この辺りまで、りりちゃんに騙されるおじさんをイメージしていたが、そこからの波瀾万丈はすごい。裁判をきっかけに職を失ったウンラートだが、フレーリヒとともに街でカジノを開いたりして。美しい女に惑わされ転落する中年男の物語だと思っていたが、解説を読むと帝国社会への批判や諷刺とのこと。映画『嘆きの天使』の原作。2024/07/12
春ドーナツ
15
記憶が曖昧だったけれど、訳者解説の「兄弟は似たような文体ではない」とのご指摘で、兄貴の小説を読むのはこれが初めてだという認識にいたる。ドイツにラートさんという苗字の方が実際にいらっしゃるのかどうか、わからないけれど、語頭に「ウン」をつけると汚物、汚臭という意味になるそうだ。帯にマレーネ・ディートリヒ出演映画「嘆きの天使」原作とあって、スチール写真が掲載されている。見覚えがある。中学生のときにねだって買ってもらった小学館の百科事典に載っていた。自由帳に模写して色鉛筆で彩色したことがあるから鮮明な記憶だ。2024/07/25
zunzun
9
作者であるハインリヒ・マンはノーベル文学賞受賞者トーマス・マンの兄である。弟トーマスと同じく文学を志、耽溺のあまりギムナジウムを退学、父の遺言には「文学という夢見がちなものよりも実学を学ばせよ」とかかれるほどにこの兄弟は文学に魅了されていた。そんな二人だが、ハインリヒのほうはあまり名前をきかない。20年ほど前に訳された本作『ウンラート教授』も漸く岩波文庫にはいったことで、彼の名も周知されていくのかもしれない。無名といってよいハインリヒだが、ウンラート教授は素晴らしい作である。2024/06/05