岩波文庫
憂愁夫人 (改版)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 319p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784003244616
  • NDC分類 943
  • Cコード C0197

出版社内容情報

憂愁夫人の呪いをうけた少年パウルは,若くして笑いを忘れ,幼なじみへの恋もあきらめ,母とともに家運の挽回に献身する.横暴な父,無理解な兄姉に虐げられながらもパウルは,神のごとき心をもっていっさいを捧げつくす.その少年心理の描写は,読者の涙をさそわずにはおかないであろう.ズーデルマン(1857‐1928)の出世作.

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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

evifrei

15
仮面をつけた灰色の女・憂愁夫人の呪いを受けたパウルは、献身の限りの人生を歩む。悪辣な父・兄妹・学生時代の同門から卑劣な扱いを受け続けても赦し続け、生じる不幸を甘受し続けるその姿は、殉教的というよりまるで自己が無い卑屈な人間にすら見える。何故彼はここまで、自分を捧げ続けなければならないのか―。読んでいる途中はフラストレーションを覚えるが、カタルシスさえ覚える物語の結末で彼の送った人生の意味が腑に落ちた。宗教的色彩の強い詩的な描写も美しい。物語の途中でちらつく幻想的な憂愁夫人の描写は背筋が寒くなる。2020/05/04

おMP夫人

11
大雑把に言うと束縛からの解放を描いた作品でしょうか。貧しい家に生まれたパウルは他人の為に自分を枷にはめる人生を送るのですが、それは決して自己犠牲などではなく卑屈さからくるものなので苛立ちを覚えるかもしれません。「人間はどこまでもあきらめをつけるように努めなくちゃならない」身の程をわきまえすぎたこの自己評価の低い精神は、現代ではなかなか受け入れられないでしょう。自分に自信をなくしていたり、落ち込んでいる人なら途中で嫌になってしまうと思うので、そういった方には勧められない作品ですが、深く考えさせられました。2013/01/22

壱萬弐仟縁

4
1886年と記されるプロローグ。詩から始まる演出が素晴らしい。横暴な父というのはホント、家族が不幸だというのは実感。評者のオヤジも自己チュー過ぎだから。教師のゴットフリートの信条として、「自身が用いるのでもない本を図書館から借りることは、自分の主義に反する」(175ページ)とある。この教師は金持ちなのだろうか。評者は図書館から相当な金額をただ乗りしてきた人間だから、逆に、この信条には共感できない。図書館の本も自分が初めて借りるときは新品なのだよ。203ページで憂愁夫人は他界し、フラウ・ゾルゲの最期は痛切。2013/02/07

KUMAGAI NAOCO

0
ズーデルマンの出世作にして代表作とも言える自伝的小説。生まれた時から一家の苦労を背負わされた主人公パウルは、父の散財や乱暴に耐え、実家を一切助けてくれない2人の兄を持ち、家の外でも虐められていた。唯一母だけが彼の支えであり、母の為なら不幸に耐えられていた。そんな母が話してくれた憂愁夫人のお伽噺が彼の深層で枷になっている気もする。この作品が翻訳されたのは関東大震災直後だが、読んでる時に能登半島地震が起きた。憂愁夫人が被災者達に灰色の仮面を被せる前に、私達は彼らへ復興の手を差しのべられる人間になりたいものだ。2024/01/09

迦陵頻之急

0
内田百閒が卒論のテーマにした小説。家の没落とともに産まれた主人公の苦難と気苦労続きの半生の物語で、憂愁夫人とは悩み多き人生を象徴する精霊のようなもの。彼女からの解放がメインテーマ。主人公はまるで「雨ニモマケズ」を具現したような愚直でまっすぐな人物。駄目人間の父親を筆頭に主人公の家族は困った人揃い。一方、主人公が生まれた邸宅と土地を買って、父親から逆恨みされている裕福な家族が、これがまた好い人揃い。そこの娘が主人公の幼馴染で、彼の人生を見守るヒロイン。おしんと嵐が丘と路傍の石を一体化した古き良き名作。2023/07/11

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