出版社内容情報
「ある家族の没落」という副題が示すように,ドイツの一ブルジョア家庭の変遷を四代にわたって描く.単純で生への気迫に満ちた実業家の家庭が代を追うにつれ,芸術的,精神的なものに支配され,人々は繊細複雑になって遂には生への意志力をも失ってゆく.マン(一八七五―一九五五)のノーベル文学賞受賞は主にこの作品によるという.
内容説明
父の死後、トーマスは新社主として商会を引き継いだ。離婚する妹、身をもち崩す弟らを抱えながらトーマスは父祖の築いた一家の名声と体面を保ち、事業にも腕を揮ってやがて市の参事会員に選ばれた。一家の血は彼によって次代に伝えられてゆくかのようであった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
143
先が見えているような展開だ。ブッデンブローク家に読むにつれ気持ちが寄り添ってくるから、彼らの運命に胸が痛む。一代目は立派。二代目にはその栄光が残る。三代目が正念場と、つくづく感じる。欧州でも日本においても、つくづくと思うのは、旧家も没落に向かってもそはゆっくりと。長年に張り巡らされた縁故は強い。そのしぶとさに反し、新興というのはなんと脆いものか。2017/05/18
星落秋風五丈原
48
【ガーディアン必読1000冊】父の死後、トーマスは新社主として商会を引き継いだ。「売り家と唐様で書く三代目」のような、工夫もしないでただ滅びるのを漫然と待っていた三代目ではなく描かれるのはむしろ絵に描いたような優等生ぶりだ。ブッデンブローク家の宿命のライバルとして描かれるハーゲンシュトレム家の当主に比べて、決して引けは取っていない。にもかかわらず事ある毎に敗北感を味わわされる。変わりゆく時代の流れに必死に立とうとしているトーマスの足を、家族全員が引っ張っている印象で、彼は次第に疲弊していく。 2021/03/31
みつ
35
アントーニエの結婚を巡るあれこれは今回も多難。兄トーマスは着実に事業を行いないつつ市民としての務めも果たし、参事官就任。とはいえ、ブッデンブローク商会の前途は次第に暗雲が立ち込める。それでも1768年創業の商会は、百周年を祝うところまで来た(p330)。後半ではいよいよトーマスの次世代である息子ハンノの幼い日々が綴られる。音楽についての詳細を極めた描写は、晩年の『ファウスト博士』を少し想起させる。いわば健全な市民の父トーマスの期待通りにならないハンノの芸術への傾倒ぶりは、『トニオ・クレーゲル』にも通じる。2024/03/18
スプーン
35
緩やかに堕ちて行っています。実写化するならトーニ役は「テス」の頃のナスターシャ・キンスキーで。2019/09/01
chanvesa
31
トーマスの苦悩は、商会の経営や家族(トーニやクリスチアン)に基づく。そして、息子ハンノは音楽という芸術の道に向かわんとしている。「正常な状況のもとでは、腹立たしい思いをさせ、健全な反応を呼びさまし、不快を感じさせる事物が、ある場合には、弱々しい、空ろな、ひっそりとした重苦しい気持でこころを押しつけてしまう気鬱状態が存在する。」(351頁)この精神状態は、トーマスが追い込まれていることを示すのによくわかる表現だ。200年以上前の人間の話が、いまの出来事としても言い表される。2023/10/29