岩波文庫
ウィーンの辻音楽師

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  • サイズ 文庫判/ページ数 171p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784003242322
  • NDC分類 943
  • Cコード C0197

出版社内容情報

湧きかえる民衆の祭り,ブリギッタ祭の日.その喧噪をよそに,年老いた流しの芸人がひとりヴァイオリンを奏でている.さり気なく口から出るラテン語の文句,気品のあるその物腰,何か深い仔細が秘められているようだ.やがておもむろに開かれた老人の口から,純な魂の漂泊が美しく語り出される.『ゼンドミールの修道院』を併収.

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

新地学@児童書病発動中

113
作者のことは全く知らなかった。訳者によるとオーストリア最大の劇作家だという。収録された2つの作品とも劇的な構成を持ち、登場人物が陰影深く描かれている。これはグリルバルツァーの作劇術が影響しているのだろう。「ウィーンの辻音楽師」は年老いたバイオリン弾きの生涯が描かれている。私のような音楽好きにはたまらない内容で、行間から哀しげなバイオリンの響きが聞こえてくるような気がした。死の直前に見せる英雄的な行動が読者の胸を打つ。「ゼンドミールの修道院」は緊密な構成を持った悲劇で、人間が持っている業の深さに慄然とした。2015/03/15

syaori

53
オーストリアの劇作家グリルパルツァーの小説2作が収録されています。恋する娘との繊細な交流を描く表題作は、作中で彼女が歌う「ほろりとするような響き」の可憐な流行歌を思わせるのに対し、『ゼンミドールの修道院』は低く高く響く荘厳で劇的なミサ曲を聴くよう。2作とも哀れな己の運命を受け入れる主人公の姿勢が、その悲劇が美しく崇高なものとして心に残りました。解説を読むと、どちらの作品にも作者の人生が色濃く反映されているようですが、そうならば、作者は何と美しく普遍性を持たせて自分の経験を昇華したのだろうかと思います。2019/01/28

SIGERU

18
ウィーンの祭りで出逢った、老いた辻音楽師と語り手の「私」。老人は、かつては人も知る名家の出自、いまは街角でヴァイオリンを弾き、日銭を得ている。興行は日中だけ、晩は自室で演奏し、音楽芸術に心身を捧げるという老人。ワルツ一つまともに弾けない男が高度な芸術を語るのに驚く私。二人がかわす会話の乖離に、この小説のテーマが収斂されている。幻滅に充ちた物語、しかし読後感は好もしい。作者のまなざしに、老人の人生への哀惜の念が籠っているからだ。19世紀半ば、黄昏を迎えた芸術の都ウィーンの大いなる没落の姿が二重映しになる。2021/02/24

ヘラジカ

16
劇作家グリルパルツァーの短編2作品。どちらも心に沁みる繊細で美しい物語である。簡潔で静かな文章だが、ふとした何気ない言葉の端々に作者の苦しみや葛藤を垣間見ることが出来る。これは単なる空想の悲劇ではなく、グリルパルツァー自身の人生を結晶化させたものなのだ。人間の美醜を、きついコントラストで書き表すのではなく、淡く混じり合うようにきめ細かに描かれている様が、幻想的であると同時に不思議な現実感をもって心に迫ってきた。100頁に満たない短編でここまで感銘を受けた作品はあまりない。折に触れて読み返したい名作である。2014/03/03

じゃがいも

14
ドイツの小説の地味で暗い抒情が好きです。ウィーンの祭で会った慎ましく品のある老バイオリン弾きが語る若き日の淡い恋。甲斐性のない男と気の強い女の子のドイツ版夫婦善哉かと思いましたが、シューベルトの音楽のように哀しく澄んでいて心に残りました。今なおウィーンの人々に哀惜されているそうです。2019/10/29

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