出版社内容情報
奴隷制度が残る時代、ミシシッピの田舎町に、一代で百平方マイルの農場を作り上げたサトペンとその一族の物語。少年時代に受けた屈辱、最初の結婚の秘密、息子たちの反抗、近親相姦の怖れ、南部の呪い・・・。「白い」血脈の永続を望み、そのために破滅した男の生涯を、圧倒的な語りの技法を駆使してたたみ掛けるフォークナーの代表作。
内容説明
憑かれたようにサトペンの生涯を語る人びと―少年時代の屈辱、最初の結婚の秘密、息子たちの反抗、近親相姦の怖れ、南部の呪い―。「白い」血脈の永続を望み、そのために破滅した男の生涯を、圧倒的な語りの技法でたたみ掛けるフォークナーの代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
110
「葉巻の匂いと藤の花の香り、蛍が飛びかうミシシッピの夏の夕暮れ」、その情景を感じながら、最後まで取り憑かれるように読んだ。その語りは頭の中から溢れ出た言葉と想いの数々を逃さぬように長々と途切れない。だがそれは詩のようにリズミカルであった。サトペン王国の崩壊、その悲劇は南部土壌の偏った大義がもたらしたもの。それはボンが逃れられなかった宿命となった。戦後五十年でも南部にはその空気が亡霊の如く漂う。その呪いを著者は肯定も否定もする。その思いをクエンティンの最後の台詞に込めて。それは南部に生まれた者だからこそ。2022/10/26
やいっち
80
自分にはなじみ辛い、展開も理解の困難な物語だった。物語と書いたが、ある意味、玉ネギの皮を一枚一枚剝いていくような、もどかしい展開。語り手が誰なのか、しばしば見失う。本書には、訳者の手により、登場人物の紹介や、家系図、地図、各章のあらましなどが付されている。何十回、これらの解説に頼ったことか。時代はアメリカの南北戦争を挟む。人種問題(主に黒人と白人の相克、つまりは血脈を巡っての諍いが話のメインであることは容易に想像が付く。が、フォークナーの手法は一筋縄で行かない。 →2020/01/13
HANA
54
後半は趣を変えて大学の一室での会話が中心。読み終わってやはりこれはゴシック小説だなと。その事を読友さんに言うと南部ゴシックというジャンルに入るのですと教えてくれた、やっぱり。情念のごった煮みたいな南部精神とか、初期ラヴクラフトを思わせる血や遺伝に対する恐怖、運命の皮肉に操られる登場人物、アッシャー家のような破滅的な最後と物語を彩る要素はさながら絢爛絵巻。それにしても時系列が混乱していたせいで読みにくいと思っていたのだけど、それも全てラストの部分に繋がる混乱だったとは。でも年表があってありがたかったけど。2014/07/22
みつ
37
下巻では、舞台はいきなり北米のマサチュセッツ州に飛び、学生生活を送るクエンティンの元にある人物の死亡の通知が届けられる。ここから彼と学友シュリーブの途方もなく長い対話が繰り広げられ、40年以上も前の出来事が2人によって再構成されていく。上巻の語りにさらに新たな声部が加わり、寒冷な気候も交え複雑極まる多声的な構造に。2人は事件の解釈者ではなく、あたかも過去の人物たち(ヘンリー・サトペンとチャールズ・ボン)が憑依して神話を語り継ぐようで、ここまで来るとこの世界からは逃れられず、夜を徹して読むことに。➡️➡️2022/09/18
km
34
響きと怒りよりも良かった。クエンティンが、物語も最後の最後、半ば放心状態で窓を見ていたところ、実際に見ているのか瞼に焼き付いた長方形を見ているのか、わからないまま見ていると、やがて重力に逆らうような、云々という描写で、繰り返し繰り返し読者の頭に刷り込まれていた印象的なあの手紙の姿に変わっていくところ、凄すぎて痺れました。ミス・ローザ、ジュディス、ヘンリー、ボン、読み終えた今、彼らが僕に憑依しているような感覚。こんな凄い小説があるんだから、読書やめられない。2016/05/06