内容説明
演出家の妻になると、夫と共に芝居について語り、材木商と結婚すれば会う人ごとに材木の話ばかり。獣医を恋人にもった魅力的なオーレンカは、恋人との別れと共に自分の意見までなくしてしまう。一人ぼっちになった彼女が見つけた最後の生きがいとは―。一人のかわいい女の姿を生き生きと描いた表題作など、作者が作家として最も円熟した晩年の中・短編7編を収録。
著者等紹介
チェーホフ[チェーホフ][Чехов,Антон П.]
1860‐1904。南ロシアの港町タガンローグに生れる。16歳の時に家が破産し、モスクワ大学医学部に入ると同時に家計を支えるため、雑誌・新聞に短編や雑文を執筆。七年間で四百編以上の作品を発表して文名も高まったが、安易な名声に満足できず、本格的な文学を志向するようになる。人間観察に優れた短編の他、晩年には劇作に主力を注ぎ、演劇史に残る戯曲も多い
小笠原豊樹[オガサワラトヨキ]
1932年北海道生れ。東京外国語大学ロシア語科中退。岩田宏名で詩人としても活躍。歴程賞を受賞している
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Aya Murakami
124
北村薫著、中野のお父さん内で紹介された本。図書館で借りました。 登場人物の固有名詞がかたっぱしから舌を噛みそうな名前な短篇集。 表題のかわいい女の主人公が妙に主体性のないキャラクター描写でした。日本も人のことを言えたものではないですが、ロシアでもかわいいというのは主体性のないことを指すのでしょうか?大学の時に受講した人権論Aの先生も「男性は主体性のない従順なかわいい女が好き」ということを言っていたのを思い出します。2019/01/02
NAO
67
【戌年に犬の本】『犬を連れた奥さん』若いのに倦怠感を漂わせている女性アンナ。40過ぎだが早くに結婚し、すっかり老け込んでしまった妻に何の感情も持てなくなったドミートリー。二人の関係は行きずりだったが、別れると思いはかえって強くなり、ドミートリーは彼女に会いにモスクワに行く。ブルジョアの倦怠感が、神西清の翻訳で美しくけだるく描き出されている。『かわいい女』オリガは、自分の考えなど全く持たず、夫の考え=自分の考えとして疑わない。こんな風に自分を全く持とうとしない女性を「かわいい」というチェーホフの皮肉。2018/06/14
aika
55
ドイツのロマン主義を想起させるような切ない恋の物語「中二階のある家」で印象的なチェーホフ流のロマンチシズムにまず心を掴まれました。その一方で、ロシアの田園風景の幻想的な世界で、過酷な労働を強いられる人々がいる現実。中でも、とある村で商売に成功した一家の悲哀を描いた「谷間」の、不幸にも引き裂かれた舅の老人と嫁のリーパの微かな希望が滲むラストシーンに涙が止まらず、しばらく次のページを捲れませんでした。人生には悪いことよりも、いいことの方が多い。通りすがりの旅人の言葉が、彼らの人生に幸として注がれますように。2021/08/22
aika
47
「母なるロシアは広いんだ!」のおじいさんにまた会いたくて、『谷間』のみ再読。生まれながらの貧しさから結婚で抜け出し、家の為に尽くして子供にも恵まれたリーパ。寒村で手段を選ばず商売に成功し、幸せな家庭を築いた舅。ある凄惨な事件によって、大切な命と財産を失い離ればなれになったふたりが再び出会う最後の場面は、祈りを込めるような気持ちで読んでしまいます。リーパの手から、その目に涙を流す老人へと渡されたピロークの温もりは、彼らに注がれる希望であってほしい。彼女とその母の祈りが、老人に明日の生をもたらしますようにと。2021/10/31
ビイーン
36
表題の「かわいい女」が印象に残る。ヒロインのオーレンカは主体性がなく恋愛依存症な女だが、それだけに愛した男には盲目的に付き従う。普通に考えれば愚かな女と思うが、オーレンカの健気な姿が愛らしくて本当にかわいい女と思わせる。奥が深い作品だった。2018/05/19