出版社内容情報
胸に赤いAの文字を付け,罪の子を抱いて処刑のさらし台に立つ女.告白と悔悛を促す青年牧師の苦悩…….厳格な規律に縛られた十七世紀ボストンの清教徒社会に起こった姦通事件を題材として,人間心理の陰翳に鋭いメスを入れながら,自由とは,罪とは何かを追求した傑作.有名な序文「税関」を加え,待望の新訳で送る完全版.
内容説明
胸に赤いAの文字を付け、罪の子を抱いて処刑のさらし台に立つ女。告白と悔悛を説く青年牧師の苦悩…。厳格な規律に縛られた17世紀ボストンの清教徒社会に起こった姦通事件を題材として人間心理の陰翳に鋭いメスを入れながら、自由とは、罪とは何かを追求した傑作。有名な序文「税関」を加え、待望の新訳で送る完全版。
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本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
346
17世紀半ばのニューイングランドが小説の舞台。つまり、イギリス統治時代ということになる。それはホーソーンにとっては捉え直さねばならない過去の時だったのだろう。そのことは「税関」の序章を持つ、この岩波文庫版がメタフィクションとしての構造を持つことで、より顕著である。タイトルの緋文字"A"は“Adultery”(不義・密通)のイニシャルであるとされるが、このシンボルは一貫して小説全体を支配し続ける。それはヘスターも、ディムズデールも、チリングワースをも巻き込んで行く。そして一人超然としているのがパールだ。⇒2016/08/15
遥かなる想い
228
物語を貫く暗い色調が印象的な本である。 私生児を生み、「姦淫」を象徴する 緋文字のAの字を一生衣服に付けるヘスタの 姿を通して、17世紀ボストンの 戒律に厳しい清教徒の町の 時代風景を描く。ひどくキリスト教的な 罪の感覚は 正直よくわからないが、 この時代の道徳観は読者に伝わる.. 最後の一文が意味したものは何なのか? 解説を読んで著者の意図がなんとなく わかった気になる、そんなお話だった。2017/02/04
ケイ
170
高校で読んだ時は理解できずに数回再読した。男の狡さだけが印象に残っていた。このたび再読して、女の愛の深さと罪を抱える強さ、裏切られた男の苦悩からくる恨みの強さ、間違いを犯してしまった牧師の心の弱さ、その三点をどう読むかを読者に委ねるために作者が作り上げた土台の重みを強く感じた。牧師が自らを晒そうとしたこと、最期の時に罪を負わせた女と自分の娘をそばに置いたことは、自己満足でしかない贖罪であり、何より罪深いことと私は思う。安らかに目を閉じた彼が再び目を開いた時に最初に見るものは、煉獄の炎ではないだろうか。2016/09/08
ペグ
81
女主人公ヘスター・プリンの凛とした強さ、その子パールの悪魔的な子供らしさ、そして牧師の命を弄ぶように復讐を企む老医師チリングワース等の登場人物の中で、最も重要な鍵となるのは牧師ディムズデールではないだろうか。彼が説教台で「自分は汚れている!」と叫べば叫ぶほど信者達は「自分の方がもっと汚れている」と叫ぶ場面は矛盾に満ち象徴的である。ホーソーンの手になる「17世紀ボストンでの物語」は素晴らしい名作だと思う。他人は騙せても自分を騙す事は出来ない。人間にとっての倫理観を問う一冊。2019/07/18
syaori
79
謹厳な清教徒の町を舞台に、不義の子を産んだ罪として緋文字を着ける女性と子供の父親、女性の夫という、緋文字に絡められた三人の受難と変容が語られます。緋文字はある時には罪とそして愛の象徴で、ある時は復讐の、また自身の虚飾と欺瞞そして「罪深い同胞」たちの罪の重さでもあって、それにより高められも低められもする彼らの姿や、聖者と崇拝される人物が自身の恥辱を明らかにすることで逆説的に真の聖者となる場面から、大切なのは罪を犯さないことではなく罪の重荷をいかに背負うかなのだという作者の透徹した視線を見るように思いました。2022/12/16