出版社内容情報
「世界文化史大系」の著者として有名な文芸批評家ウェルズは,最初この軽妙なユーモア小説によって今世紀初頭の文壇に認められた.インチキ強精剤トーノ・バンゲイを発明して巨万の富を儲ける男を主人公とした物語であるが,19世紀イギリス社会相の解剖と描写の中に科学思想を盛り,文学作品としても傑出している.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
117
H.G.ウェルズの異色長編。インチキ強壮薬トーノ・バンゲイで儲ける叔父の事業に巻き込まれる主人公ジョージ。その売り方は今日の栄養ドリンクの売り方と全く同じであり、著者の先見性に驚く。一方、恋した女性とは結婚するも、いささか型にはまった堅く融通の効かない性格であり、15年後に離婚する。この女性メアリアンがこれまた世間にいそうな女性であり、著者の観察力・描写力に感心する。かくして恋に破れ、事業に希望を持てないためジョージは叔父の事業から飛び出して…というところで上巻が終わる。下巻に期待が持てます。G1000。2023/10/02
ケイ
113
「タイムマシン」「モロー博士」とは随分と雰囲気が違う。父親が出奔して生死のわからない主人公は、叔父の家に引き取られ薬剤師になるべく勉強を始めるが、それまでも居場所が二転三転する。母は彼を手元に置きたくないわけではないだろうが、母の死後に主人公が思うように、彼女の気持ちや考えがわからないまま。主人公はいわゆるいい子ではないために、あちこちで問題を起こしてしまい、その描かれ方が特に悲劇的でなく淡々とすすむのが特徴。落ち着き先の叔父は非常に怪しい人。ちなみに「トーノ・バンゲイ」は人ではなく薬の名前2016/05/29
Tetchy
110
これはポンダレヴォー家の栄光と挫折の記録である。トーノ・バンゲイという奇妙な題名は人の名前を指すのではなく、語り部のジョージ・ポンダレヴォーの叔父エドワードが発明した一種の強壮剤の名前だ。そしてこの薬は彼らに巨万の富を生み出し、あれよあれよと事業を拡大していく様が描かれる。本書は数多くの名作を書いたH・G・ウェルズの作品群の中でもほとんどの人に知られていない作品だろう。しかし本書は『タイム・マシン』や『宇宙戦争』、『モロー博士の島』と並んで英ガーディアン紙の読むべき1000冊に選ばれた作品の1つなのだ。2022/04/05
NAO
52
叔父が、一世一代の大勝負を賭けて売り出した薬トーノ・バンゲイ。母の死後叔父に預けられた主人公は、叔父の手助けをして、トーノ・バンゲイを売り出していく。「何かやらなくちゃならん」といつも考え、言い続けていた、一発当てずには気が済まない叔父の心情、彼に振り回される主人公が、コミカルに描かれている。ウェルズというと『タイムマシン』や『モロー博士の島』がまず思い浮かぶが、それらの作品とは全く違うウェルズを楽しむことができる。2016/08/17
しおつう
26
実はこの本、中西信太郎という訳者関係で読み始めた。かの先生は京大名誉教授であり、シェイクスピアを日本に持ち込んだ第一人者であるとのこと。もちろん数十年前に鬼籍に入られてはいるのだが、司馬遼太郎先生が坂本龍馬を世に現した様に、中西先生がシェイクスピアを日本でメジャーにしたと言っても過言ではない、と先生の教え子である高齢者の方から紹介された作品。シェイクスピア翻訳の傍らに、これは面白いとのことで訳されたということである。感想は下巻にて…。2016/10/19