内容説明
ポーランドに生れ幼年期をロシアの流刑地で送り、長じてフランス船に乗り組んで世界を回り、作家となったコンラッド。英国僻村、ロンドン、パリ、ナポリ、南米の小島、革命戦争下チリを舞台に、無名の市民や貧農、スパイ、テロリスト、老貴族らが、苛酷な暴力、非情な政治、狂熱の愛に翻弄される姿を描く。異色傑作六篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
拓也 ◆mOrYeBoQbw
33
中短篇集。『闇の奥』『ロードジム』『密偵』などで知られるコンラッドの作品集、中篇2つと短篇4つという感じの構成ですが、どの作品にも言えるのが人物描写や人物表現の巧みさ。『闇の奥』などは人物表現が強烈な反面、本筋は曖昧模糊としてますが、中短篇はどれも明解なプロットで劇的な作品の数々。リアリズム調で、幻想や魔法的なモノは排除してるのに奇想的な内容の数々。いわば”嘘を現実的に見せる”のが小説の本質の一つと考えるなら、コンラッドの作品はとても面白く読める作品だと思いますー(・ω・)ノシ2017/12/24
拓也 ◆mOrYeBoQbw
30
再読。多くの小説はその登場人物達に、時代、国家、民族などを象徴させますが、19世紀は複雑なプロットや相関図で長々と表現する所を、中短篇でやってしまうのがコンラッドの手際だと思います。このサイズですと長篇の様な曖昧模糊とした雰囲気作りも無く、登場人物の決断、あるいは死に様で人物やその意味が措定されていく明快で単刀直入な物語に。リアリズムの手法は踏襲しつつ、ルールや常識に縛られない大胆なフィクションで、私小説の延長だった世界から大きく一歩踏み出した感じがしますねー(・ω・)ノシ2018/07/22
藤月はな(灯れ松明の火)
26
孤独と絶望で閉じる「エイミー・フォスター」と対となる「ガスパール・ルイス」。社会によって人は生かされており、人間の自由意思を持って生活する以上、そこから離脱することは出来ないことを思い知らされる「無政府主義者」と恋をしたことによって全てを失うというあっけなさが恐ろしい「密告者」と皮肉なラストの「伯爵」が印象的でした。2012/11/07
ラウリスタ~
22
もう全部面白い。なにが面白いかと考えたけど、その理由の一つにはやはり、コンラッドの無国籍性があるようだ。南米を舞台にしても、ナポリを舞台にしても、イギリスのど田舎を舞台にしても、コンラッドは説得力のある物語を構築できる。商業的な短編も、たんなるドンパチで終わらず、なにか読者のなかに生き続ける人物像を残していく(『白鯨』みたく)。なにか違和感があるとすると、そのあまりな20世紀らしさ。20世紀の最初の10年に書かれた作品が主体なのに、両大戦間に書かれた作品な空気まである。20世紀文学の嚆矢というにふさわしい2014/05/09
Pustota
9
作品一つ一つの引力が強い。舞台も状況も全く違う作品たちだが、語りが巧みで引き込まれる。そして理不尽や哀しさに対するどこか引いたような眼差しが印象的だった。特に「密告者」の何とも言えない後味の不気味さが好き。2022/06/14