出版社内容情報
イギリス・ロマン派の詩人シェリー(1792―1822)がその詩魂を存分に傾注した4幕の詩劇.人類に火を与えたため,苛酷な罰に処せられたプロメテウスを主人公に,憎悪と復讐を超えた〈愛の勝利〉を高らかにうたう.(改訳)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
117
英のロマン派の詩人シェリーの詩劇で、ギリシア神話で有名なプロメテウスが主人公。ジュピターによって絶壁に鎖で繋がれたプロメテウスが解放されることによって、この世に癒しがもたらされ、理想の世界が出現する。戦争や宗教上の争い、人間が抱えている憎しみや敵意といった否定的なものを正面から見据えて、それを詩的な想像力で克服しようとするこの詩人の理想に深く共感した。堕落した人間のあり方に対する激しい怒りをぶつけているのだが、それが抒情詩としての作品の質を全く傷つけていないところが奇跡的だと思う。2015/04/12
藤月はな(灯れ松明の火)
86
町山智浩氏による『エイリアン:コヴェナント』の紹介でこの本も紹介されていたので読む。アイスキュロス版は未読ですが、シェリーは「これは権力との癒着でなんら、問題は解決してないじゃないか!」と不満でこの作品を作ったそう。だから内容もゼウスの「正義」という名の残虐さが反転された形での自己破滅やゼウスがいなくなってからの神々たちの意思の反転、ニーチェっぽいことも言っていて中々、過激です。2017/06/27
松本直哉
20
自らの主張にあわせて神話を書き換えたのだろうが、主張が前面に出すぎて、政治の演説のようにも聞こえてすこし興ざめだった。権力と暴力の神ゼウスは滅び、そのあとに来るのは誰も権力をもたない、愛と希望に満ちた世界だという結論は、無政府主義者ゴドウィンと女権論者ウルストンクラフトを舅姑にもつ詩人ならではの理想主義であろうが、いささか青臭くてナイーブすぎるのではなかろうか。実際は、権力が滅びたあと来るのは新たな権力で、その連鎖を断ち切ることができずにいるからこそ、いまだにウクライナが、パレスチナが、苦しみ続けている。2024/05/03
ロビン
19
権力に対する妥協を見せるアイスキュロスのプロメテウス劇への異議を込めて、35,6種にも及ぶ詩型を駆使して書かれたという詩劇。シェリーのプロメテウスは自分に苦しみを与えたジュピターへの復讐心を乗り越えており、ジュピターはいわば自滅の形で退場し、ヘラクレスやアシア(大洋神の娘)に助け出されたプロメテウスは愛の勝利を高らかに歌う。ジュピターはあたかも地上の権力者、プロメテウスは暴力を否定する無血革命家のようである。シェリーはプロメテウスを通して、権力に忍耐強く抵抗する人間の気高さを描きたかったのかもしれない。2021/10/28
またの名
12
原作にないというか無関係な想いをありったけ注いで紡がれた、アレンジ詩劇。人間に彼らを解放する灯火を与えてしまったので主神ジュピターに拘禁されたプロメテウスの周りで、精や鬼神が語り合う。「世界を作ったのは誰だ。思想や情熱や理性や意志や想像力を作ったのは」「恵深き全能の神」「では恐怖や狂気や罪悪を作ったのは」。創造主だろうと主君だろうと無条件で讃えられる盲信の時代は終了を宣告され、かつて栄光の誉れに浴してたジュピターに与えられる新しい名は、独裁者。しかしシェリーが期待したほどその後の歴史は幸福に進まなかった。2018/04/30