内容説明
様々な経験をした約半年間にわたるディケンズのアメリカ旅行も、いよいよ終わりの時を迎える。奴隷制度など、自由・平等・博愛を高らかに標榜するアメリカの抱える矛盾にも、青年ディケンズの目は鋭くそそがれていた―。付録として、親友ジョン・フォースター(1812‐1876)のディケンズ伝より第3章「アメリカ」を収録。
目次
第14章
第15章
第16章
第17章
第18章
補遺
ジョン・フォースター『チャールズ・ディケンズの生涯』より
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
114
厳法、先住民排斥、著作権無視など自由・平等の標榜の欺瞞に多様性を重んじる著者は憤怒する。下巻では黒人虐待や白人の残忍な事件を引用して奴隷制度を批判し、奴隷戦争と力解決の世界的蔓延を危惧。日常的暴力を温和な世間話で済ます報道や世論、誰かの上にいないと満たされないプライド、手元に攻撃手段がないと送れない日常、制御が効かない怒り衝動…危険性を自覚しても誇りたがる「普遍的不信感」にはあらゆる格差社会に通じる暴力と連鎖の本質が見て取れる。「自由」に対して無責任な「臆病者」たちの力の乱用への洞察と示唆は鋭くモダンだ。2022/07/15
壱萬参仟縁
7
「徳をそなえた人になるには金持よりも貧乏人のほうがはるかに難しい」(64ページ)。そうかなぁ? 逆だと思えるが。人徳は経済レベルには関係なさそうだが。「精神は、人生から健康的な美点を剥ぎ取り、青春から無垢な喜びを奪い取り、円熟した老齢から楽しい心の装いをむしり取り、生存というものをただ墓場に向かうだけの狭い道にしてしまっている」(78ページ)。気になった箇所。如何に奴隷制度がダメなものなのか、よくわかる。言いなりの存在を小ばかにしてきた結果、自由な國とはいっているものの、不自由な存在を忘れてはならないナ。2013/01/28
まふ
6
当時の大国イギリスからみた新興国アメリカの大自然、人々、国情、経済、文化、風俗、生活、レベル、等を隈なく記している。が、ディケンズの気に入らない部分が相当にある。黒人奴隷制、噛たばこ、著作権を認めない文化レベルである。1841年時点なので奴隷制はまだ健在であり、理想の民主不義を実現したとされる国の黒人奴隷を家畜化し、耳をそぎ、首枷、足枷をつけ、肉体を痛めつけ、不具にし、モノとして売買する、その国家としての偽善性を痛烈に批判している。ディケンズの批判力がよく覗える書であった。2020/03/15
がんもどき
6
アメリカ全土を旅したのかと思ってたが、”極西部”というのは西海岸までいかない表現だった。えらく中途半端な印象を受ける。相変わらずアメリカのことは辛い評価だけど、ナイアガラの滝からまだイギリス領だったカナダに行ってからは、打って変わって好意的な表現が多いのがわざとらしい。フォースターの文章の部分を読んでアメリカが独立したため批判的な目で書いたのかと思ってたのが、実は著作権にいい加減な国という事情があったらしいと分かる。作家としてはそれは許容できないだろうな。2022/03/06
てり
4
渡米時29歳という若いディケンズ。すでに彼はアメリカでも人気作家で、至る所で過剰なほどの歓待を受けつつ、その一方で著作権問題を抱えていて、アメリカの出版業界とは対立関係にあったということ。そんな彼の目を通したアメリカは、いくつかの福祉施設などは賞賛されていたが、おかしみのある言葉を使いつつも冷めた批評眼で語られているように思える。印象に残ったのは上巻のローラ・ブリッジマンの話(ヘレン・ケラーへと繋がっていくのは感動的)とインディアンの酋長の話。そして奴隷制への怒りに似た批判かな。解説も良かったです。2022/02/26
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