内容説明
「四時とも、私は雨が大好き…」(「雨のゆうべ」)。自然に風土に、生活に食に芸能に、そして思い出に―生活に根ざした随筆にこそあらわれる、もうひとつの鏡花の世界。多彩な題材の五十五篇を精選、現代の読者のために詳細な注を付す。
目次
玉川の草
雨のゆうべ
飛花落葉(抄)
春狐談(抄)
森の紫陽花
草あやめ
北国空
一景話題
自然と民謡に―郷土精華(加賀)
寸情風土記〔ほか〕
1 ~ 1件/全1件
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稲岡慶郎の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヒロミ
72
夏に鏡花を読むと涼しい。ましてや随筆は。頰を撫でる薫風にも似た凛として歯切れの良い文章が心地よい。流れゆく季節への想い友人達との交流、食についてなどなど鏡花の美意識とエッセンスが濃縮された一冊。師匠の紅葉譲りの擬古文の随筆もあるが王朝時代の古典よりはつっかえずに読み進めることができた。口語体の鏡花に触れることができる貴重な機会な気もする。友人を記した随筆で「煙管を持たせても短刀くらいに女が殺せるほどいなせな切れがないといけない(大意)」という表現には痺れた。関東大震災の随筆が鏡花らしからぬリアリズム。2016/07/19
HANA
51
鏡花というと「高野聖」や「草迷宮」といった小説ばかりで、今まであまり随筆を読む機会はなかったのだが、本書でその渇を癒すことができた。自然や文壇、本に生活と様々な話題を語っているのだが、あの独特の文体は小説そのままでそれを存分に堪能できるのは嬉しい。この文体で随筆を書くと自然描写がことに美しく、摩耶夫人に参る旅にしても北国の空にしても庭先の小さな草花にしても、それぞれが一際魅力的に映し出される。その他にも関東大震災の記録、幼少時に出会った女性の事等が心に残った。特に後者は幻想文学としても至極の一品だと思う。2013/07/27
KAZOO
32
寺田寅彦の随筆集もいいのですが、泉鏡花の随筆もいいですね。旧仮名で書かれたものや今の話し言葉で書かれているものが混在しています。55編と非常に多様な感じがしますがとくに自然に関するものが多く心が安らぐ感じがします。折に触れて読みかえしたい気がします。2014/09/04
奥山 有為
13
鏡花は「外科室」を大学で読んで以来。気になるところから読んでいく。いま住んでいる地域・北陸のお話は読みやすい。冬の雷「鰤起こし」の話も。住んでいて近くの名物も知らずに、ずいぶん昔の鏡花の随筆で知ることになるとは。2016/09/05
mak2014
11
明るいというかほがらかな鏡花。紀行文集の時も感じたが随筆の鏡花も小説の時とはかなり違う面を見せてくれる。執筆時期にもよるのだろうが文体も様々。小説よりは分かりやすい。普通に明確な文章も書けるのだな~。紅葉は当然として、漱石、鴎外、一葉、芥川などに関しての文章は彼らへの深い敬意を感じさせ趣深い。『遠野物語』への絶賛は、やっぱりと頷かせられる。2016/12/06