出版社内容情報
「女も男と同じごと仕事しよったですばい」「どんなことにでも堂々とむかってやる、こい」。筑豊の炭鉱で働いた女性たちの声を聞き取り、その生き様を記録した一九六一年のデビュー作。意志と誇りを失わず、真っ暗な地の底で過酷な採炭労働に従事した彼女たちの逞しさが、生き生きと描かれている。(解説=水溜真由美)
内容説明
「女も男も同じごと仕事しよったですばい」「どんなことにでも堂々とむかってやる、こい」。筑豊の炭鉱で働いた女性たちの声を聞き取り、その生き様を記録した一九六一年のデビュー作。自らへの誇りを失わず、真っ暗な地の底で過酷な採炭労働に従事した彼女たちの逞しさを生き生きと描く。
目次
無音の洞
流浪する母系
棄郷
灯をもつ亡霊
のしかかる娘たち
セナの神さま
ヤマばばあ
赤不浄
共有
地表へ追われる
坑底の乳
付録 聞き書きの記憶の中を流れるもの
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
88
戦前から戦後の炭鉱封鎖前にかけて炭鉱で働いていた女性鉱山労働者の言葉を書き綴ったレポート。奴隷のように働かされ、棟梁に殴られ、学校にも行けず、帰宅しても家事、育児をしなければならなかった女性たちは押しなべて不幸だったか?答えは否である。家族を捨ててまで働き甲斐のある炭鉱夫と共に働いたり、十分に働かない癖に女を馬鹿にする男をタコ殴りにし、「人間は働かなきゃいけない」という彼女たちの言葉には自負が満ちていた。同時に日本が今のようにある意味、豊かになったのは彼女たちのような人々が働いてくれた事を忘れてはならない2022/01/21
やいっち
88
本書は、女性の坑内労働をめぐる記憶を最初に解放した書。ルポもの、聞き書きものとして嚆矢といっていいのか。1961年に初めて刊行。その後、幾つかの出版社を経て1977年に三一書房から再刊。 本書は三一書房版を底本にしている。水溜真由美の解説を付しての新刊である。炭坑画と云えば、言わずと知れた山本作兵衛。その炭坑記録画が各章の扉に載っている。小生は嘗てブログにて山本作兵衛を特集したことがある:「山本作兵衛の筑豊炭鉱画と五木『青春の門』と」森崎は谷川雁に連れられて初めて炭鉱町を訪れたとか。2021/12/09
どんぐり
87
筑豊の炭坑で採炭労働に従事した女性へ聞き書きした森崎和江のルポルタージュ(初出は1961年)。かつて石炭が黒ダイヤといわれ、日本の高度経済成長を牽引した時代があったが、この本はそれよりずっと前の明治から昭和初期の頃の話。当時の採炭現場では、男女一組の夫婦が真っ暗な地底に入って、ツルハシで石炭を掘る先山とそれを運び出す後山となり、危険と隣り合わせに仕事をしていた。高倉健の父親が大正炭坑で炭坑労働者を束ねる労務係長をしていたのはよく知られた話だが、そこでは女性が炭坑に入ることを禁じる1931年まで→2024/12/01
がらくたどん
59
森崎氏を偲んで。三一書房版を岩波が文庫化た本。挿画として山本作兵衛氏の画文集『炭鉱に生きる』の記録画が引用されている。森崎=聞き書きの原点として読むならば個人の記憶が個人の言葉で社会の主流規範への忖度をサラリと脱いで語られる現場の臨場感は『からゆきさん』以上だと思う。男性と肩を並べて坑道に入る彼女たちの語りから、最下層の労働と自覚し喘ぎながらも労働の共有で愛の深さを測り示す「共働き甲斐」という、家父長制の護られ従う愛とも経済学の家庭内労働力再生ケアとも異なるモラルの形成が立ち昇ってくるのがとても興味深い。2022/06/30
Masakazu Fujino
20
森崎和江さんの「まっくら」岩波文庫化されてすぐに買っていたのに、森崎和江さんの訃報を聞いて、初めて読んだ。オーラルヒストリーの先駆け、しかも我が故郷の折尾・黒崎・水巻・頃末・上津役・中間・木屋瀬・若松などの地名や遠賀川・堀川などの名がたくさん出てくる。森崎さんが聞き書きしたおばちゃん(ばあちゃん)たちや、話に出てくるおいちゃんたちは、昔よおけおったよなあ、とこちらの言葉も変わってくる。炭鉱労働者たちのおばちゃんやおいちゃんたちの気風が、あの辺の人たちの中に溢れとったと、今なつかしく思い出している。2022/07/20