出版社内容情報
「親愛なる椎の若葉よ,君の光りの幾部分かを僕に恵め」(葛西善三).どぎつく,ものうく,無作為ででまた超技巧的――小説の百花繚乱と咲き乱れた時代は,関東大震災とその後の混迷を迎える.大正期に発表された,芥川竜之介・川端康成・菊池寛らの16篇を収録.(解説・解題=千葉俊二)(全六冊)
内容説明
どぎつく、ものうく、無作為でまた超技巧的―百花繚乱の大正文壇は、やがて関東大震災とその後の混迷を迎える。芥川竜之介・川端康成らの一六篇を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
24
中村真一郎だったと記憶するが、大正期の日本の短篇小説は世界最高水準だったと書いていた(新潮文庫の『戯作三昧・一塊の土』の解説)。それだけに期待も大きかった分戸惑いも隠せない。私小説があまり好きではないことにもあるのだろう。芥川龍之介だけで1冊を編めば、さらに水準の高い作品が並んだのではと思ってしまう。選ばれた『奉教人の死』も、結末の意外さに焦点を当てた作ではあるが、切支丹ものは相性が悪い。面白かったのは、売れない役者とその息子を描いたどこか悲哀に満ちた『虎』、これを引用した同じ芸人ものの融通無碍の➡️2023/12/16
ワッピー
21
大正時代の短篇小説16選。著者や作品のタイトルは聞いたことがあっても、実際に読むのは初めて。時代の雰囲気とともに、各作の切り取った情景にも意外に現代的なものも含まれていることに驚きました。親への葛藤を描いた「師崎行」、大学を出て稼ぎの悪いフリーターになった「屋根裏の法学士」、酒乱の述懐「椎の若葉」が印象的でしたが、ふんわり不思議な散歩譚「西班牙犬の家」と激しい情念「銀次郎の片腕」は別格でした。どの時代にあっても、人生の機微は通底するところがあり、悲哀や不条理、怒りとともに微笑・苦笑も必ずあるものですね。2019/02/18
長谷川透
20
収録された16篇を読み終えてみると、見事に大正という時代を反映していると思う。日清・日露戦争を経て列強に伸し上がる国家の享楽的な雰囲気が伝わってくる「虎」や「猫八」がある一方で、民衆騒擾の発生、労働争議の激化など、社会的な矛盾の証言たる作品群も多く、とりわけプロレタリア文学である「淫売婦」が心に残った。この時代の小説は私小説、あるいは自叙伝的な要素の強い作品が多いのだろうが、著者の生き様云々よりも、著者の時代を見る視線を伺い知れることが面白く、文学作品としての他、貴重な史料としても価値がある。2012/12/03
ぬぬ
18
大正時代に執筆された16話の短編小説。どれも面白かったですが、特に有島武郎の『小さき者へ』は、とても心が暖かくなり抱きしめたくなるお話でした。わたしは子どもを産んだことはありませんが、親がどれほど子どものことを想い愛しているのかがひしひしと伝わってきた作品でした。 きっと父や母にどれだけ力説されるより、本作を読んだほうがわたし的にはぐっときました。次に、芥川竜之介の『奉教人の死』は本作に収録されているのはほとんど私的小説なのに対し、第三者の立場から客観的描かれていることから、コメント欄に続く↓↓2019/06/01
壱萬参仟縁
17
田村俊子「女作者」で、「結婚したって私は自分なんですもの。私は私なんですもの」(14頁)と男尊女卑の時代に本音が。不自由だったろう。佐藤春夫「西班牙(スペイン)犬の家」は1時間で書きあげたという驚愕のスピード(73頁)。昨年のシナリオライトの経験からしても、短期間に一気に書ける、という時期はある。恣意なく、すらすらとキーが打てる時は私にもあった。相手に喜んでもらいたい一心だったことが大きいだろう。有島武郎で「十分人世は淋しい。私たちはただそうやって済している事が出来るだろうか」(166頁)と疑問を投げる。2013/09/15