内容説明
明治40年盛夏。東京新詩社の雑誌『明星』に集う若き詩人たち―北原白秋、平野萬里、太田正雄(木下杢太郎)、吉井勇がいさんで旅に出た。与謝野寛との五人づれは長崎・平戸・島原・天草と南蛮文化を探訪し、阿蘇に登り柳川に遊ぶ。交代で匿名執筆した紀行文は新聞連載され、日本耽美派文学の出発点となった。
目次
厳島
赤間が関
福岡
砂丘
潮
雨の日
領巾振山
佐世保
平戸
荒れの日
蛇と蟇
大失敗
大江村
海の上
有馬城址
長洲
熊本
阿蘇登山
噴火口
画津湖
三池炭鉱
みやびお
柳河
徳山
月光
西京
京の朝
京の山
彗星
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
100
明治40年(1907年)夏、東京新詩社の主宰の与謝野寛(鉄幹)とその門弟、北原白秋、平野万里、吉井勇、木下杢太郎の5人が一ヶ月にわたり九州旅行を旅した。「五足の靴」と名づけた旅の記録。翌年には北原、吉井、木下が東京新詩社と袂を分かっただけに、『明星』の放った最後の輝きと云えるかも知れない。それ以後、五足の靴が揃った事はなかっただろう。二度と見る事のない青春の輝きであったに違いない。2017/05/28
HANA
65
時は明治四十年、雑誌『明星』に集う五人の詩人が北九州を旅行する事となった。本書はその顛末を綴った旅行記である。厳島から始まり肥前は平戸と長崎へ、そして天草を経て肥後へと渡り阿蘇山登山後柳川へ。その後京都を経て帰還という日程は、五人の人間関係もさることながら明治期の地方の文物を知るのもまた楽しい。特に柳川の白秋の生家に泊まった時の様子など。詩人の旅らしく合間合間に誌が挟み込まれるのもいいなあ。無署名なため白秋以外はわかりにくいけど。とあれ明治の「修学旅行」読んでいるとこちらまで駘蕩とした気分になれました。2023/08/02
penguin-blue
45
明治の終わりの頃、与謝野寛、北原白秋、平野萬里、木下杢太郎、吉井勇の錚々たる五人の九州旅行記。年長の寛でも30代、他は20代前半と若く、まだまだ旅の情報が少なく、行く先々で見るものが珍しかった時代の新しい風景や風物に触れた新鮮な喜びと解放感が文章の端々にあふれる。阿蘇山で案内人のせいで道に迷う話や、炭鉱に降りた体験談など興味深い。この頃彼らが見た景色は、いま私たちが同じところで見るものとだいぶ違う事だろう。2019/08/27
浅香山三郎
20
日本近代文学に名を残すビッグネームたちの青春旅行記とでも言へようか。木下杢太郎の回想によれば、本書がきつかけのひとつになり、文学の中での南蛮的な趣味の流行がはじまると言ふ。長崎・島原を巡り、キリシタンの遺跡に思ひをはせるくだりなどに、それが顕著に表れてゐる。さうした箇所も含めて、鉄道の無いところでは歩くしかない当時の旅や、日本人の今は無くなつてしまつた生活の質の豊かさが随所に読みとれる。旅そのものはたいへんだつただらうが、その経験はまことに羨ましい。2019/08/11
花林糖
20
明治40年の夏に与謝野寛(鉄幹)、北原白秋、平野万里、吉井勇、太田正雄(木下杢太郎)の五人が九州を旅した紀行文。夫が天草出身なので天草の箇所が特に印象深かった。2018/08/05