出版社内容情報
昭和5年『放浪記』がベストセラーとなり,芙美子は念願の中国へ,翌年はシベリア経由でパリ,ロンドンへ出かけた.「苦しい事は山ほどある.一切合財旅で捨て去ることにきめている.」旅を愛した作家の,愉楽の時が記される.
内容説明
昭和5年『放浪記』がベストセラーとなり、芙美子は念願の中国行きを果たす。翌年はシベリア経由で渡欧すると、半年余りをパリ、ロンドンで過ごした。小説を書くのは恋人が待ってくれているように愉しいと言いながら、「苦しいことは山ほどある。一切合財旅で捨て去ることにきめている」。旅を愛した作家の、愉楽の時を記す20篇。
目次
北京紀行
白河の旅愁
哈爾賓散歩
西比利亜の旅
巴里まで晴天
下駄で歩いた巴里
巴里
皆知ってるよ
ひとり旅の記
春の日記〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
lily
132
内向的で日焼けも寒さも退屈も旅特有の煩わしさ、不便さ、心配事も嫌いで、読書の方が一人旅以上に旅してる気分に穏やかに浸れる私にとって、まさに楽天家の林芙美子の紀行文学は頗る有り難い。旅の醍醐味だけを安心して吸収することができる。市井の人々、自然、建築物、特産品、みるもの全てに心を配り、愛で、好奇心旺盛な林芙美子は尊敬する芭蕉の如くいい仕事といい旅に生きた。2019/07/28
やいっち
69
昭和の始め頃に、何でも観てやろう精神の女性(作家)が居たことに驚き。片道分の旅費があるだけなのに、妙に楽天的に樺太やらシベリア、満州、巴里、倫敦へ、北海道やら伊豆やら上州へ。そう言えば子供の頃から転居を繰り返してた。結婚してたのに、旦那はおっぽりだして放浪する。破天荒なんだな~2025/05/06
ひろみ
25
「長旅は一人にかぎる。」と。昭和の初め頃に記された紀行文が20載っています。とても臨場的で、色鮮やかに景色を思い浮かべられる文章でした。読んでいてとても楽しい。印象や心情なども、友達の話を聞いているような親近感。 巴里へはシベリア鉄道で。人好きのする方だったんだろうなぁと思います。行きずりの人とのやりとりがたくさん書かれています。垣根のなさ。素直さ。ご自身の中での対話。 この時代の文章を読むと、聞いたこともない擬態語がたくさん出てくる印象です。「ちぐちぐ」「ほつほつ」などなど、面白い。2023/09/08
アオイトリ
24
NHK100分で名著より)柚木麻子の解説が上手で、林芙美子、初読。え〜!こんなにあっけらかんと面白いこと書いていたなんて、知らなかった。その感性は今も分かり合える。花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき…は有名ですが、全文を知るとまるで違う印象。風も吹くなり 雲も光るなり 生きている幸福は 波間の鴎の如く縹渺と漂ひ 生きている幸福は あなたも知っている 私もよく知っている 花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど 風も吹くなり 雲も光るなり。その明るさが好きです。2023/07/27
ソングライン
20
作家として生活ができるようになった20代後半、時代は満州事変直前の1930年(昭和5年)、作者はハルピンからヨーロッパへむかう列車に一人乗り込みます。シベリアを走る列車の三等車両で出会うロシア人達、言葉は通じぬが二度と出会うことのない貴重な交流を経験し、10日の列車旅で到着したパリ。その後パリとロンドンで約半年間のアパート生活を送る作者。仕事として小説を書くことの辛さ、日常のわずらわしさからの救いを得るための旅ですが、この時代を考えると彼女の旅は命がけです、だから面白くないわけはありません。2021/04/24