出版社内容情報
故郷小田原の風土に古代ギリシアやヨーロッパ中世のイメージを重ね合わせ,夢と現実を交錯させた牧野信一(一八九六―一九三六)の幻想的作品群は,その知的ユーモアと諷刺精神により,無類の文学世界を築きあげた.表題作の他に「鬼涙村」「天狗洞食客記」等の短篇八篇と「文学的自叙伝」等のエッセイ三篇を収める. (解説 堀切直人)
内容説明
故郷小田原の風土に古代ギリシアやヨーロッパ中世のイメージを重ね合わせ、夢と現実を交錯させた牧野信一の幻想的作品群。表題作の他に「鬼涙村」「天狗洞食客記」等の短篇8篇と「文学的自叙伝」等のエッセイ3篇を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
22
「鬼の門」の魔術を会得した主人公の自分は高潔だと思っていたら実は他人の目が怖い癖に自意識だけは過剰な強欲ものだと気づく辺りが痛すぎる滑稽味があります。「天狗洞食客記」の主人公の語りが何か似ている・・・・と思っていたら森見登美彦氏の「有頂天家族」の天狗先生だと連想しました。2013/01/24
波璃子
15
2013年のセンター試験で出題された「地球儀」を読んでから気になっていた作家さんです。「ギリシャ牧野」という異名通り度々登場する古代ギリシャに関わる用語によって小田原がまるで異国のよう。英語のカタカナ読みや韻を踏む言葉が相変わらず違和感満載です。幻想的で滑稽な世界に寂しさや狂気が潜んでいるような印象を受けました。「私」と馬のゼーロンの出来事が描かれた表題作「ゼーロン」が良かった。クララ、クララ、クララックス、クララックス!2014/10/04
YO)))
15
"ギリシャ牧野"氏の緒作は、世界を祝福する文学だ。アホらしくて思わず笑ってしまうが、田舎ペダンティックな唯一無二の幻想味に果てしなく魅せられもする。主人公(例外なくマキノ氏自身)が、己の卑小さを余さず曝け出しつつも、空想の幻野に飛翔していく、そのカタルシス、爽快感たるや…2013/04/29
かみしの
13
三島由紀夫は、彼を稲垣足穂や内田百閒と一緒に並べたということだけれど、慧眼と言わざるを得ない。牧野の、特に「吊籠と月光と」や「酒盗人」や「ゼーロン」などの小説は、大正から昭和期の小田原に突如中世ヨーロッパの吟遊詩人が現れたかのような筆致で書かれていて、端的にいえば「なんだこれは」となる奇想天外なものだ。ここは一体どこなんだ、と思わず目を剥いてしまう。硬質で詩的な文体で描く世界の根本はやはり私小説であって、彼の脳はこういう世界の中で活動していたんだろうな、と思いを馳せてしまう。もっと知られてもいいと思う。2017/08/12
月
10
★★★☆☆(短編9篇、随筆3篇。いわゆるギリシャ牧野ものに関しては、こういう読み進め方でいいのか・・このまま理解できるのか・・はっきり言って不安だった。ゆっくり読めば読むほど頭が混乱する。言葉の迷走・・。ある意味幻想的かつ滑稽的で、少し狂気(分裂的)めいたものも感じてしまう・・。しかし、何かしら新鮮でもある・・。普通こういう風な小説は書こうとしても書けないように思う。僕自身、初めは拒絶したものの何処か癖にもなる・・。好む好まざるに関わらず牧野信一は異質であり、ある種規格外の作家と言える。) 2013/09/07