出版社内容情報
日常の中に突如ひらける怪異な世界を描いて余人の追随を許さない百間文学.後期の傑作七篇を収録.水が電車道にあふれだした日比谷交叉点を牛の胴体より大きな鰻がぬるぬると這ってゆく描写に始まる連作短編「東京日記」をはじめ,「白猫」「長春香」「柳〓校の小閑」「青炎抄」「南山寿」「サラサーテの盤」を収録 (解説 川村二郎)
内容説明
日常の中に突如ひらける怪異な世界を描いて余人の追随を許さない百〓文学、後期の傑作七篇を収録。東京幻想紀行とでもいうべき「東京日記」をはじめ、「白猫」「長春香」「柳検校の小閑」「青炎抄」「南山寿」「サラサーテの盤」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
73
「東京日記」などいずれも傑作とされているようだが、「柳検校の小閑」が特にお気に入りだった。読んでいて、創作とは思わず、あれ、内田百閒って、盲目だったっけと慌てて確認したほど。目の不自由な人の、音や気配に敏感な生活ぶりが生々しく感じられた。「日常の中に突如ひらける怪異な世界を描いて余人の追随を許さない」百間文学の粋を表している作品ではなかろうか。2020/02/08
zirou1984
46
これは異界のチラリズム、もしくは秘すれど隠しきれない不安感―百閒はこの手の機微を描くのが抜群に上手い。それは知性や高尚さというものをドブ板に流し込み、地べたに生きる日常を丁寧に描く作風からも明らかだ。しかしそこに穴を開け幻想を埋め込む事でぞくりとさせる嫌らしさ。食えないが憎めない爺さんであることは間違いない。表題作では不気味で不思議ながら後味はさっぱりとした奇譚が淡々と日記風に綴られる。映画の原作でもある『サラサーテの盤』での感傷が一陣の風となって通り過ぎていく様な、無性に心をざわつかせる感じも悪くない。2015/06/24
メタボン
29
☆☆☆☆ 知らない間に異界に踏み込んでいるような作品が多い。特に東京日記は日記というより、世にも奇妙な物語のオンパレード。続けて読むと食傷気味になるので、思い出したように1編だけ取り上げてゆっくり読む方が味わい深いか。「サラサーテの盤」の未亡人の狂気が怖い。弟子を哀惜する「長春香」も良い。「青炎抄」は時折何が起きているのかわからない不気味さが独特。2022/07/14
あんこ
24
百閒先生のひねくれた随筆も勿論好きだけど、短編もやっぱり好きだ。東京日記などは、特に日常世界からいつの間にか不可思議な空間にさ迷い込んでしまったかんじがたまらない。じんわりと迷子を楽しむ感覚。また、同じような雰囲気の「青炎抄」もひやりとしたおどろおどろしさを感じながらも夢中になってしまう。他にも、死を色濃く描くものもあり、(闇鍋のはなしは百閒先生ならではのユーモアも感じられますが)淡々とした描写でより切ないものを感じます。2015/03/12
踊る猫
19
関東大震災「以後」に書かれたことがハッキリと分かる短編集。つまり震災の爪痕がそんなに小さいものではなかったということが如実に記されているということで、ここかしこにその影は透けて見える。読みながら戦慄したりあるいは百閒の亡き人に対する思いに切なくなったりしたのだけれど、やはり圧巻は「青炎抄」と「東京日記」だろう。『冥途・旅順入城式』よりも具体性はグッと増し、輪郭がくっきり浮かび上がるようなそんな幻想小説として成立しているように思う。あとは「サラサーテの盤」も良い。たったこれだけの字数で良く狂気を書けるな、と2017/01/04