出版社内容情報
黒島伝治(1898-1943)は、兵士、農民、労働者の哀しさ、戦争の惨さを、抑制された文体により短篇小説、随筆にまとめた。戦争(シベリア
内容説明
動員された兵士、貧しい農民、民衆の哀しさを、抑制された文体と素朴なユーモア、見事な構成により短篇小説、随筆にまとめた作家・黒島伝治(1898‐1943)。「渦巻ける烏の群」「橇」をはじめとする作品は、異国への越境を強要され、シベリアの大地を這う兵士達の抵抗の叫びから成る戦争文学の名作である。作品18篇を精選。
目次
小説(電報;老夫婦;二銭銅貨;豚群;橇 ほか)
随想(小豆島;戦争について;入営前後;自画像;入営する青年たちは何をなすべきか ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
66
「身の丈の合わない教育を子に施す親」というテーマで描かれる「電報」と「老夫婦」は対構造となっている。前者は子に教育を諦めさせるが、後者は諦めないが為に自分の身の丈の合わなさを実感させられる。そして現在もあり得るだろう事を描いた後者の方が苦みのある余韻が長く、尾を引くのだ。また、どちらも教育を受ける側である子供の気持ちが一切、描かれない部分も不気味だ。「豚群」の抵抗が一時のむしゃくしゃした気持ちを晴れやかにするだけで現実に何も影響を及ぼさないのに虚を打たれ、「渦巻ける烏の群れ」は題名の意味を知るラストが強烈2021/12/12
NAO
60
小豆島を舞台にした初期の作品は、貧しい農民子どもに高等教育を子どもに受けさせたいと考えたことから起きる不幸を描いている。さらに、除隊を間近にして派遣されたシベリアでの見聞を元に、反戦作品を書いた。第一次世界大戦後、ロシアの赤軍を止めるためという名目でシベリアへ進行した日本軍。だが、大した計画もなく無謀でしかなかったこのシベリア派遣の犠牲になったのは、やはり、貧しい者たちだった。小豆島を舞台にした話も、反戦作品も、底辺にあるのは貧しい階級がいかに虐げられているかを明らかにすることだったのだ2022/02/28
p31xxx
6
多くの作品の結末は、挫折か破滅と呼べると思う。皮肉な笑いがある。自虐的でもある。動員された兵士、貧しい農村、自分の体験した世界について、日々の生活に汲々としながら、作品として描いて、辛かろうと思う。やはり戦場に巷に見聞きした話、自身の経験に材を取ったのだろうか。2022/02/15
刳森伸一
5
以前読んだ講談社文芸文庫の『橇・豚群』に続いて2冊目の黒島伝治。重複している作品も多いが、本書では随筆なども所収されている。教育を受けることで「生意気」になることを防ぐために教育をやめさせようとする田舎の慣習を描く「電報」や、シベリア出兵を題材にした壮絶なラストの「渦巻ける烏の群れ」など、力強い作品が並ぶ。随筆は小説と比べると軽いが、黒島伝治の立ち位置が良く分かる佳作だと思う。2021/12/29