出版社内容情報
友達の忘れ形見を育てている団子屋佐蔵は,生活苦から幼い太一を商売女に貸し,その謝礼で生計を立てている.浅草を舞台として,銘酒屋の女と意気地のない五十男と孤児とが描き出す哀愁に満ちた「子を貸し屋」,雰囲気は庶民作家としての宇野浩二(1891‐1961)の真価を窺うに十分であろう.別に作者の出世作「蔵の中」他3篇を収める.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
28
☆☆☆☆ ざっかけない文体が読みやすく面白い。「子を貸し屋」は傑作。淫売屋の女たちが警察の取締から逃れるために子供を連れて歩くという設定が時代を感じるし、浅草六区の情景を活写している。着道楽なのに(むしろそれゆえにか)質入れを繰り返す「蔵の中」も面白かった。女房の故郷の町を子持ち芸者との逢瀬を目的に訪れる「一と踊」も味わい深い。他、「屋根裏の法学士」「晴れたり君よ」。2020/04/09
三柴ゆよし
11
作者自身があとがきで触れているように、表題作「子を貸し屋」からはどこか「空虚なもの」が感じられる。哀愁が勝ちすぎているように思う。個人的には、「蔵の中」、「屋根裏の法學士」みたいなアホ話が好きだ。質に入れた着物を自分で虫干し、質屋の二階で暢気にお昼寝、もちろん布団も質入品。下宿の廊下でスケエティング、すべってころんで、向脛打って悶絶……。なんでこいつらこんなに馬鹿なの? 妄想に生きる人、乙骨三作が実に良い味出してます。町田康とか森見登美彦とか好きな人に読んでもらいたい。2009/10/23
nina
9
大正年間に書かれた5篇の短篇を収録。男女のドロっとしたものの中に時おりさらっとしたものが入り混じるようなどれも独特の私小説風な作品だが、ほとんどが作り話であるとあとがきで本人が述べている。表題の『蔵の中』では主人公が貧乏の着物道楽で着物を誂えては次々と質屋に入れてしまい、果ては今着ているものまで質屋に入れたのを借りているといった徹底ぶり。しかも着物にまつわる女性との因縁話からも主人公のダメ男ぶりが知れ、笑うしかない。銘酒屋の女性が警察の目をごまかすために子供を借りに来る『子を貸し屋』もオリジナルの味わい。2013/12/30
イリエ
6
『蔵の中』は100枚程の作品ですが、飄々とした宇野浩二の人物像が伝わってきます。冒頭「そして私は質屋に行こうと思いたちました。」から「着物というと、たとえそれが不幸にして自分の手元に置いておけなくとも、その所有権だけはどうしても手放せないのです。」という主張があり、やや間延びし始めると「これがありのままなんですから、辛抱してお聞きください」と合いの手をいれてくる。「~私の人生に残されたのはこれ等の着物ばかりだともいえるのです。」現代のシンプルライフ偏重の社会にインパクトがあって面白いです。2015/07/03
頭痛い子
5
書評家オススメ、とことんダメ男がでてくる話に、宇野浩二『屋根裏の法学士』があって、絶版本をなんとか見つけ出し読んでみたけど、めちゃくちゃ面白かった。1ページ1ページが惜しいくらい。旧字体もあり読み進めにくいとこもあるけど、前後の文脈を見つめればわかる。宇野浩二、出会えて良かった。夢野久作っぽい語り口調『蔵の中』、『晴れたり君よ』が良かった。『子を貸し屋』推す人多いけど、わたしはピンと来ず。岩波文庫のこれがまた絶版本で古本屋に出るときはでるけど、無いときはどこ探してもないのが惜しい。2023/04/22
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