出版社内容情報
関東大震災後の役者風俗を,うち枯れた背景の前に描き出してほとんど神品と謳われた「春泥」,さりげない言葉の端に人生の深い意味を含ませる独特の会話に彩られた「花冷え」.この大川端の絶えることなき人の情の変転と,美しき感情の影のさしひきに,年ごとに「芸」の深さに徹してゆく作者の面目は,残りなく示されている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
63
関東大震災後の役者たちの転変を描く「春泥」と、友人死後の集まりを書く「花冷え」の二編を収録。両者ともに淡々と進み激しく動くストーリーはないのだが、それが逆に市井の人々の日常を表すのに相応しいようにも思える。そういう意味ではまだ劇団のいざこざを中心にしている「春泥」に比べて、「花冷え」の方は本当に動きがない。でも動きが無いにも関わらず、ここに表れてる親しい人を亡くした茫漠とした寂しさはなんなんだろうなあ。少しのエピソードで登場人物の心理を克明に書き込んでいく。しみじみとした滋味に溢れた水の様な作品群でした。2018/03/17