出版社内容情報
満洲事変から太平洋戦争に至る時代を背景に,苦しみもがいて生き,あるいは傷つきたおれた青年たちを深い共感をもって描き,あわせて日本ファシズムを動かしていた支配層の生活と思想とを重層的にとらえた大長篇小説.戦争で中断を余儀なくされながら,この作品に作者は二十年力を注いだ.一九五六年完結.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
26
こういう重厚で骨太な長編小説は久しぶり。左翼運動で投獄後退学・転向した省三の鬱屈した日々を中心に、二二六から日中戦争に至る時代、その波に乗る資本家や政治家たちの傲慢、乗り損ねた主人公やその友人たちの煩悶、隠棲して離れたところから時代を批判する元士族、不幸な結婚をした子爵夫人の肉欲、地方の伝統の造り酒屋の盛衰と商売敵との確執など、多面的な切り口で描く。本の分厚さも執筆の時期も谷崎の細雪に似ているが、その語り口はより辛辣で容赦ない。男たちが次々に転向したり出征したりを横目で見る多津枝の皮肉な視線が印象的。2024/07/12
壱萬参仟縁
14
貧富、生産性(力量)、運(12頁)の理不尽さ。 「軽井沢」で、贅沢しているくせに、 財布がひとりでに際限なく膨れて行くからくりの不合理を指摘する(86頁)。 誰かが貧乏に甘んじているからなのだが。 「伯父」で、城址の図書館が出てくる(386頁)。 図書館なんて年寄りの閑人か、書生っぽよりほかに入用のないものを拵えるより、同じ金で、 なにか会社の一つもたててくれたら、町の潤いになるものを、とある。 図書館はODの御用達でもあるぞよ。 他の節でも、図書館が結構出てきて、時代を問わず、存在意義を感じさせた。 2014/03/02
i-CHIHIRO
0
お気に入りレベル★★★★☆2025/04/25