内容説明
フレップは赤い実、トリップは黒い実。ツンドラ地帯の潅木から名づけた白秋の旅。船は国境の安別から真岡・本斗・豊原・大泊・敷香を巡りオットセイとロッペン鳥群れる海豹島へ。歌や手紙、創作をはさみ、異郷の人心と風景息づく、心はずむ紀行文。
目次
揺れ揺れ帆綱よ
海上の饒舌
小樽
おおい、おおい
安別
パルプ
真岡
多蘭泊
本斗の一夜
樺太横断
小沼農場
イワンの家
豊原旧市街
樺太神社
豊原よりの消息
木のお扇子
笛
曇り日のオホーツク海
敷香
海豹島 その一
海豹島 その二
巻末に
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Fondsaule
12
★★★☆☆ 北原白秋といえば詩だけれど、これは紀行文。横浜を船で出発して、樺太を巡る旅。まだ、南側が日本の領土だったサハリンは日本語で地名が出てくる。どんなところか気になるので、現在のロシアの地名を調べて、ストリートビューで見に行ってみる。西海岸から横断し海豹島ではロッペン鳥とオットセイを眺める。時々、文章に詩が交じり、とても自由な感じ。2018/06/06
qwer0987
10
樺太旅行を描いた紀行もの。まず目を引くのは文章のリズミカルな雰囲気と詩的な描写だ。体言止めや同一または似たような単語をくり返すことで躍動感が生まれており、その勢いに読んでいて心惹かれた。旅行中の雰囲気も良く、同行者との会話の実に楽しげな感じや和気藹々とした明るい空気がすてき。船中での愉快なやり取りや樺太横断でのドタバタした味わいなどは印象的だ。また異国に近いこともありアイヌやロシア人に旅人らしいエキゾチシズムを感じている。その中でもセーニャ一家の話はしんみりした味わいがあり心に残った。2023/12/03
みーまりぽん
8
読み切るのにずいぶんかかっちゃったなあ。。 「フレップ・トリップ。樺太葡萄の赤い実と黒い実。・・・」大正14年、鉄道省主催の樺太観光団の一員として2週間、汽船による航海・各地での巡遊を経て目的地の海豹島まで、心弾ませている北原白秋さんです。 詩のイメージと違う、遊び心のある文章で、目に映る光景を文字に写し取ろうとしているようです。後半の「ハーレムの王」あたりでは言葉による映画に挑戦してますね。 ただ・・・ま、時代的にも仕方ないかもしれませんが、庶民を見下してるとこがあるような雰囲気がちと気になったかな。。2015/01/03
なおこっか
6
梯久美子『サガレン』からの流れで読んだ。白秋の目には風景もリズムを持って飛び込んでくるらしい。非常に調子よい文章、浮かれた北海行である。白秋訪問時のサハリンは、日本からの役人がいばっており、現地住民に対し「まだ日本語が使えない」などと言う。敷香でのロシア一家との出逢いは良い想い出のようだが、白秋もまた無知な観光客故の上から目線がちらつく。象徴的な啄木との邂逅の記憶、「奥州や北海道は鬼の国」と口走って啄木を怒らせ、慌てて自分は熊襲だからと取り繕う。2023/08/14
アムリタ
6
白秋のイメージは「教科書に載ってる真面目そうな童謡のおじさん」。しかし、なんと天衣無縫なこと。好奇心のかたまりで、愛情深く、無邪気。 樺太観光団の一員として、大正の終わりに最果ての土地を旅した白秋は、見るもの聞くもの全てにこころを動かし、驚き喜ぶさまを、独特なリズムでうたいあげる。 白秋にとって、生きることイコール「うた」であったのだ。船の出港前には「パパは行ってきます ランランラン」と家族に電報を打ち、幼い息子への語りかけるような文章などは、安定したしあわせな時期の白秋が浮かび上がり微笑ましい。2018/10/22