出版社内容情報
斎藤茂吉は近代短歌の第一人者であり,また広く日本の近代精神を体現した文学者の一人である.その作品は,深く人間性に根ざして微妙の情感を伝え,万人の心に共感をもたらす.本書には全作歌一万七千余首のなかから一六九○首を精選し,秀作,問題作をことごとく収めるとともに,茂吉一代の歩みをあきらかにした.
内容説明
茂吉(1882‐1953)は近代短歌の第一人者であり、日本の近代精神を体現した文学者の一人でもある。40年にわたる作歌活動によって生まれた全短歌から1688首を精選した。初期の生命感の躍動するなまの表現から、次第に複雑な人生の味わいをたたえる沈静へと移ってゆく。本歌集は、茂吉という個性あふれる作家の、精神の自叙伝でもある。
目次
赤光
あらたま
つゆじも
遠遊
遍歴
ともしび
たかはら
連山
石泉
白桃〔ほか〕
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
またの名
9
「かの岡に瘋癲院のたちたるは邪宗来より悲しかるらむ」と詠む精神科医としての心境が見えつつ、人の一生が句の断片から展開する作り。ヨーロッパ留学の際には激動の国際情勢に揺れる異国の情景を目にして、「一隊がHakenkreuzの赤旗を立てつつゆきぬこの川上に」と記録。自宅が燃え軍靴が鳴り戦争の高揚と平和の高揚が続いてやってくる日々の中「月いりて霜ぐもる夜を起きゐつるわれのこの身よ客観に似たり」という日常と思弁の混じった感覚は、偉大な哲学にも結実しない。「けだものは食もの恋ひて啼き居たり何といふやさしさぞこれは」2019/07/18
はち
5
赤光は既読だがいかんせん15年ほど前なので完全に忘れていたし、その頃はさっぱりわからなかった。その時期の歌も好きだが、ヨーロッパ留学期の歌も好きだ。ヒトラーのミュンヘン一揆に遭遇し、帰国したら自宅の病院が焼け落ち(この辺は息子、北杜夫の作品で知っていた)、戦後は戦意高揚の歌を作ったとされた。そこまでではないと思うのだけど。時代や環境に振り回されてしまった人。精神科医という独特の境遇もまた歌に影響を与えているのだろう。近現代でも最高クラスの歌人。もう少し文字が大きかったらなぁ。2014/10/17
Rockwell
3
読み終えるのに時間がかかってしまった。茂吉さんは、観念的な歌を詠う癖をなおしたいと思っていたらしいですが、私は観念的なほうが好きでした。古典に教養があり、ベタな表現も多々。特に自然の風景描写は安定していて個人的にはつまらない。しかし、脳病院経営者なだけあって狂人関係の歌はなかなかいい。他にもちらほらと好きな歌があったのでいくつか紹介しておきます。 ・ふゆ原に絵をかく男ひとり来て動くけむりをかきはじめたり「あらたま」 ・自殺せし狂者の棺(くわん)のうしろより眩暈(めまひ)して行けり道に入日あかく「赤光」2012/07/06
シロクマぽよんぽ
2
近代短歌最大の歌人といえば茂吉(万葉調・生命肯定・写生・実相観入と評されることが多い)。読んで思ったのは、言うほど「生命肯定」でもない、ということ。ありのままを写すことと生の肯定って関係なくないですか?短歌の私性も崩れていないから、作家論的な読みに頼らざるを得ないし。でも作品の幅はあるし、リフレインと字余りが多いのは意外だった。まあ、茂吉のコピー作品を量産したらおじいちゃん先生から褒められるんじゃないですか。自分はやらないけど。いくらなんでも神格化され過ぎだし、そういう人ほど多分茂吉を読んでいないと思う。2021/11/21
anarchy_in_oita
2
斎藤茂吉は写生に徹するのみならず、自分の人生をも歌い込む。彼の若き日の歌はみずみずしく躍動感に満ちている。たとえ場面が暗くとも、どこかほの明るく感じさせるほどだ。言葉はこれほど美しくなれるのかと思う。 しかし良くも悪くも時は流れる。晩年の彼の作品は素晴らしく爛熟していると思う。だがその表現力で描き出される情景はあまりにも暗く、哀しい。自らの老いた身をかこつその姿は、読んでいて痛々しく思えた。 僕はまだ彼の全ての作品を鑑賞するには若すぎるのかもしれない。これから何度も何度も読み返すことになるだろう歌集。2020/01/25