出版社内容情報
酌婦お力のはかない生涯を描いた「にごりえ」.東京の下町を舞台に思春期の少年少女を描いた「たけくらべ」.吉原遊廓の闇とその周辺に生きる人々に目を向けた一葉の名篇を収める.詳細な注を加えての改版.(注・解説=菅聡子)
内容説明
酌婦の身を嘆きつつ日を送る菊の井のお力のはかない生涯を描いた「にごりえ」。東京の下町を舞台に、思春期の少年少女の姿を描く「たけくらべ」。吉原遊廓という闇の空間とその周辺に生きる人びとに目を向けた一葉の名篇を収める。改版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
389
表題の2つの中篇小説を収録。いずれも明治28(1895)年に書かれている。日本近代文学の黎明期だろう。そうした中にあって、一葉は旧来の日本文学の延長上に近代を拓いたという意味できわめて特異な存在だろう。文体は西鶴のそれに似ているし、構築される世界は世話物のごとくである。さて、「にごりえ」だが、なんとも情緒的かつ情念的な小説である。結末の不分明なところがまたいい。この世界は鏡花に継承されていくように思う。一方で「たけくらべ」の瑞々しさも捨てがたい。異論はあるだろうが、美登利はやはり信如に密やかな恋心を⇒2018/10/19
新地学@児童書病発動中
115
昔から繰り返し読んで心の中に刻まれている樋口一葉の2つの小説。ここに描かれていることは哀しくて、切ない。それでもどうしようもなく好きだ。時代小説の市井物が好きなので、明治の貧しい人々の生活の中に残っていた江戸情緒を感じられるところが好み。現代の時代小説を読んでも江戸情緒は感じられるが、それはあくまで作者の想像によるものだ。樋口一葉の小説の場合は、江戸の情緒の名残を実際に体験して書いているので、味わいの深さが違う。明治に生きていた人たちは、今の人にくらべて、はるかに季節に結びついていたはずだ。(続きます)2017/09/12
藤月はな(灯れ松明の火)
107
再読。やっぱり、血縁がないために酌婦になるしかなかったお力、源七の奥さんのお初さん達、それぞれの立場は違うが幸せではない女の生き方が遣る瀬無さすぎる「にごりえ」が印象的。だって源七なんて水商売の人に「貴方を愛しているわ」と言われて真に受ける男の痛さがあって張り倒したくなる。しかし、こんな情けない男でも子供に「お父ちゃんは好きじゃない。だって何も買ってくれないんだもの」と言われる世知辛さやラストの無理心中に巻き込まれたお力を悼まずにお力が働いていた店の損失を心配する世間様の冷たさには胸が痛みます。2017/08/15
やいっち
99
読むたび、哀切痛切の念が深まる。結核での24歳での死。「生活に苦しみながら、『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』といった秀作を発表。文壇から絶賛され、わずか1年半でこれらの作品を送り出した後、24歳6ヶ月で肺結核により夭逝した。」 ガロアじゃないが、白鳥の歌にしても凄絶過ぎるな。感想なんて書けそうにない。2022/05/19
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
71
☆4.0 気合を入れていないと筋がわからなくなります。 気合を入れていても結局筋がわからなくなります。 少し味わってみて下さい。 /// あれなりと捉らずんば此降りに客の足とまるまじとお力かけ出して袂にすがり、何うでも遣りませぬと駄々をこねれば、容貌よき身の一徳、例になき子細らしきお客を呼入れて /// てな具合です。2020/12/19