出版社内容情報
詩情と求道心が混然一体となった文学者・国木田独歩(1871-1908)。「柔い心臓を持っていた」(芥川龍之介)詩人にして小説家である。その小説は
内容説明
詩情と求道心が渾然一体となった作家・国木田独歩(1871‐1908)。「柔かい心臓を持っていた」(芥川龍之介)詩人にして小説家である。その小説は、今に至るまで広く愛読されている。『運命』は独歩が一躍脚光を浴びた代表的短篇集である。「運命論者」「画の悲み」「空知川の岸辺」「非凡なる凡人」など、全9篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Major
54
1902年公刊。まるで美しい水彩画のような抒情を湛えた情景描写。志村少年への少しの屈折した思いや自我意識、そしてある日ささやかな出来事から始まる友情。少年の日の懐かしき思い出を瑞々しく描出する筆力に感動する。岸辺に座り、黙々と水車の画を描く志村少年の純真を、柳葉の揺れる木陰と木漏れ陽の描写だけで十分に表現してしまった。「川柳の影が後うしろから彼の全身を被い、ただその白い顔の辺あたりから肩先へかけて楊やなぎを洩もれた薄い光が穏かに落ちている」。お薦めです。→Noteへ2025/09/07
Major
42
【運命論者】独歩の作品における最終の一行は余韻を残す。「その後自分はこの男に遇ないのである」という一行もまたしかりである。少年期から自らの出生の秘密に「惑」を抱え身を立ててからはその出生の秘密に端を発する悲劇的で数奇な「運命」に翻弄され逸れられない宿命を説く主人公。これに対して自然の理法に信を置き反宿命に立つ対話者「自分」と鋭く対立する。この主人公は独歩の生立ちと重なる。そしてこの「自分」も本作執筆当時の独歩なのだ。最終行は《惑》を感じながらも自らの宿命的な過去との訣別を告白した一文であった→Note 2025/09/18
優希
40
「運命」を主軸に様々な風景を描いた短編集でした。それぞれの物語にそれぞれの運命の色彩があり、独歩の世界へとスッと入っていくような味わいです。「運命」という題材だけで違う世界を描けるのに驚きました。2025/05/02
Major
38
【巡査】岩波文庫『運命』所収: 驚いた。そしてこの巡査は僕にとってもお気に入りの忘れえぬ人となった。驚いたのは言文一致体と相まって、この短編に出てくる「自分」(独歩)と巡査の談話の内容にである。単身赴任の巡査の語る身上話はそのまま現代に通ずる。今日の日常生活とあまり変わらぬ130年前の情景が瞳裏に映じる。卓越した人物•情景描写に加えて漢文の文字面を目で楽しませ、その心地よいリズムを脳内に響かせてくれる。巡査というただ一介の人物の生活と心情を丁寧に描いた秀作である。お薦めです。→Noteへ2025/09/14
フリウリ
14
国木田独歩の第三小説集。「巡査」を読みたくて、国会図書館デジタルで探しましたが、読んだのは「佐久良書房、明治39年」の版。デジタルとはいえ、当時の版面で読めるのは、きわめて意義深い。ただ、佐久良書房版は読みにくい箇所もあり、適宜、近代文学館による復刻版(こちらも国会図書館デジタル)を参照(内容はこの岩波文庫版と同じであるようなので、こちらに登録)。大正、昭和初期の作家に最も読まれていた作家は、漱石でも鷗外でもなく、独歩であったそうです。人間の良心がおおらかに描かれていて、なにか安心するものがあります。82025/07/11




