出版社内容情報
大学入学のために九州から上京した三四郎は東京の新しい空気のなかで世界と人生について一つ一つ経験を重ねながら成長してゆく.筋書だけをとり出せば『三四郎』は一見何の変哲もない教養小説と見えるが,卓越した小説の戦略家漱石は一筋縄では行かぬ小説的企みを実はたっぷりと仕掛けているのだ. (解説 菅野昭正・注 大野淳一)
内容説明
『それから』『門』と続く三部作の第一篇にあたる。大学生活を背景とする知的環境のうらに成長しゆく純潔なる一青年に、意識と反省を越えた世界では愛しながらも、意識と反省の世界では男をあなどりさげすむ聡明にして自由なる女性美祢子を配し、触れようとして触れ得ぬ思慕のたゆたいを描く。明治41年作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
136
田舎から上京して来た三四郎の日常が丁寧に描かれていると思いました。新しい空気の中で成長していくのですね。新しい文明を目の当たりにし、淡い初恋を経験する。青春文学と言えるかもしれません。三四郎が想いを寄せる美彌子との微妙な距離感が絶妙で何となくもどかしい気がしました。物語のキーワードともいえる「ストレイシープ」は美彌子をつかめない三四郎、いや美彌子自身だったのかもしれません。小説ならではの偶然と必然が溶け込んだ平凡であり、奥深い物語。過去となった日本人のあり方が美しく描かれていると思います。2015/02/17
Aya Murakami
122
図書館本。 田舎者三四郎が希望を胸に東京の学校に学びに行くが…。 授業が始まったのに一向に先生がやってこなくて教室はからっぽ…、という状況が当時の日本の世の中を暗示しているような…?もちろん自分は明治の世の中を生きていたわけではないのでなんとも言えないのですが…。上っ面の権威や外部からの知識ばかり尊び、その裏に潜む心情を無視する姿勢は今の世の中も変わってない気が…(汗)。別の個所では人々は真実だけ追い求め感情は無視するなんて表現もありました。2018/12/14
ケイ
105
朝日新聞の切り抜きで読む。岩波文庫の解説なのでこちらに記録。毎日の書き出しは美彌子から始まるところが多く、彼女の謎めいた感じが強調されるよう。以前は美彌子も日に日に三四郎に興味を寄せていったように覚えていたのだが、今回はどうも、野々宮に失恋したのだと確信するように思った。ここまで妖しく描かれながら、三四郎を始め、男たちはだれも本当には美彌子に寄っていかない。彼女がフラフラする。平塚らいてうのようになってはいけないから、落ち着かせなくてはと漱石は彼女を嫁に行かせた、と今回は勝手に解釈することにする。2015/03/30
Kiyoshi Utsugi
48
福岡県の裕福な家庭に生まれた23歳の小川三四郎が、熊本の五高を卒業して、東京大学に向かうところから物語は始まります。 再読なのですが、すっかり忘れてました。 主人公の三四郎は、漱石の弟子であった小宮豊隆がモデル。野々宮宗八は、同じく漱石の弟子であった寺田寅彦。そう言えば、先日読んだ「漱石先生」の中に、小宮豊隆、寺田寅彦の対談がありました。その時は、三四郎の登場人物のモデル二人とは知りませんでした。😅 三四郎の憧れの女性である美禰子が、いい感じで描かれています。😀2023/05/29
こばまり
46
柔道のお話…ではなかった。思い違いに息を呑む。読んだらさらに驚いた。風俗には時代を感じるが、地方出身の青年のあの心許ないフワフワとした在り方、確かに身に覚えがある。三四郎同様私も東京には終わりがないと思ったものだ。ラストシーンも古びずにかっこいい。2023/11/22