出版社内容情報
「しつこい,毒々しい,こせこせした,その上ずうずうしい,いやな奴」で埋まっている俗界を脱して非人情の世界に遊ぼうとする画工の物語.作者自身これを「閑文字」と評しているが果してそうか.主人公の行動や理論の悠長さとは裏腹に,これはどこを切っても漱石の熱い血が噴き出す体の作品なのである. (解説・注 重松泰雄)
内容説明
山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。―美しい春の情景が美しい那美さんをめぐって展開され、非人情の世界より帰るのを忘れさせる。「唯一種の感じ美しい感じが読者の頭に残ればよい」という意図で書かれた漱石のロマンティシズムの極致を示す名篇。明治39年作。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
147
この本も何度目かの再読です。ただほかの本と同様に読む年代によって印象が変わってくるのかもしれません。若い頃は結構この中の筆者が引用する様々な知識の披露(衒学的な感じ)が心に気持ちよく響いた気がしました。最近読むと若干それが鼻について話の筋の方が気にかかるようになりました。それでもやはり読んでいると漱石の文章は魅力的ななにかがあります。2023/01/02
kaoru
78
冒頭の見事な文章に始まり、桃源郷のように典雅な那古井の情景が描かれる。画工の前に現れる美しい那美。才気走った彼女と丁々発止の問答を繰り広げつつ画工は芸術と自然を思い、俳句や漢詩に興じる。有名な湯壺のシーンは天上的だ。だがこの桃源郷も、俗世を疎んじる画工や風変わりな那美も、文明の荒々しい速度には勝てないことが次第に明らかにされてゆく。日露戦争の影が日本を変えてゆくさまを朧げに描きながら、満州に行く元夫を見送りに行く那美の顔に浮かんだ「憐れ」を見て画工は「胸中の画面が咄嗟の際に成就した」と書くが、⇒2021/03/29
ハイカラ
63
人間が人間である以上、人情から完全に離れることはできない。損得に頭を悩ませ、世間体をつくろい、他人を執拗に探偵しないとどうしても生きてはいかれない。非人情を貫き通すのは不可能事だけれど、やはり自然と遊ぶくらいの余裕は持っていたいと思った。2016/05/18
おいしゃん
60
東京・虎ノ門に「草枕」という、古風な珈琲屋がある。音楽も雰囲気も、読書にはもってこいのお店だ。さて店名にするほどなのだから、一度読んでみようと、こうして手に取ったわけだが、なかなか言い回しが面白く、そしてやはり文章のリズムが素敵。住みよい世とはどんなものなのか、またいつか再読し、主人公と向き合ってみたい。2014/07/28
NAO
59
人生に少し倦んできた画工の、非人情の旅。非人情の旅は、漱石の芸術論でもある。唐詩、イギリスの詩、小説、絵。古今東西のさまざまな名作が画工の頭に次々浮かび、画工はそれらの作品に思いを巡らす。俗では美しい絵は描けないが、いくら那美が美しくても、非人情が過ぎると画工の絵心を刺激する顔にはならない。足りなかったものが「憐れ」だというところが、漱石らしくて好きだ。『トリストラム・シャンディ』について言及している部分があるが、漱石は、スターンの書き方を肯定はしていないのだと思う。2016/04/21
-
- 和書
- 日本よ、何処へ行くのか