出版社内容情報
秀才だが世才に乏しい文三の失職を機に,従妹お勢の心は軽薄才子の昇に傾いてゆく.自意識過剰の中で片恋に苦しむ文三の姿を中心に各種の人間典型を描きながら,官僚腐敗への批判をひらめかせている.最初の近代リアリズム小説であり,その清新な言文一致の文体は明治文学の出発点となった.明治二十―二十二年作. (解説 中村光夫)
内容説明
真面目で優秀だが内気な文三と、教育ある美しいお勢は周囲も認める仲。しかし文三の免職によって事態は急変、お勢の心も世知に長けた昇へと傾いてゆく。明治文明社会に生きる人々の心理と生態を言文一致体によって細緻に描写し、近代文学に計りしれない影響を与えた二葉亭四迷(1864‐1909)の記念碑的作品。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
90
日本初の口語小説と言われる作品です。恋の心移りが細密に描かれていました。周囲に認められていた仲の文三とお勢。文三の免職さえなければ、お勢は昇へと心変わりしなかったかもしれません。文三が免職後、意固地になる部分があったからこそお勢の心も離れていったように思います。「学問」しか考えられない男の理想が生み出したドラマのような作品でした。登場人物たちの性格も今とあまり変わらないのも面白いところです。2016/04/30
藤月はな(灯れ松明の火)
32
日本で初めの口語小説であり、「なぜ、理想を抱いた者が貧乏籤を引き、俗物が得をするのが世間なのか?」という叫びを落とし込んだかのような恋愛小説。人の心は状況によってころころ、移り変わり、また、地についたような決断もできない「浮雲」のようなもの。確かに免職してから掌を返したような態度を取るお政も大概だけど、文三はコロコロと態度が変わる癖に人に多くを求めすぎて面倒くさい・・・・。文三に振り回されて切れて別れたお勢の気持ちの方が分かる気がします。それにしても月岡芳年が『浮雲』の挿画を担当していたのに驚きました。2015/03/11
歩月るな
16
日本史に刻まれる誘鬱小説。今時分これを読まんでも、と言う趣きはあるが冒頭失職から始まるのだから致し方ない。故に文学的価値側面を抜きにしても、後の『坊っちゃん』などに連なる「敗北小説」の金字塔である。陰の者と陽の者の対比でもあり、のび太はスネ夫に勝てない、結婚するはずだった幼なじみが職場の友人に取られる、結果だけみるとそうなる。誰しも己の中にも似たり寄たりな所を持っていたり。文章の話だと、割と文三に焦点化された地の語りが三篇だと他人の心中に及び、お勢にも急にボロクソ言い出し、恋の幻想から引き戻す効果ありと。2020/04/14
slowlifer
15
明治20年当時、女性は結婚して一人前という前近代的な価値観に縛られた風潮があったのだろう。お勢が、ある時を境に自分らしく自由に生きていこうと吹っ切れたのでは?という意味で、ウーマンリブの小説でもあるように思った。また、高潔で悩み苦しみ理想を求めると社会的には成功せず、目上にへつらい、自分より劣ると見るや蔑むような要領のいい人が認められる世相への問題提起も含んでいる(らしい)。「孟子」「宋史」などの古典を出自とする慣用表現も多く、絶対的な読書量・知識にも圧倒された。句点。がなくても歯切れの良い文体にも陶酔。2015/06/07
ピンクピンクピンク
13
言文一致で書かれた近代文学の始まり記念碑的作品。明治の若人のトライアングル・ラブ。四年の執筆間に叙述の型が変わっているとの事ですが、個人的に第一遍が好みです。正に言文一致の妙というか会話の写実に臨場感があり、説教の場面など自分が叱られてる様な気分になります。第三者が語り手として読み聞かせている様も面白いです。中身の感想は、いつの世も恋愛ってのは人を狂わせる始末に負えない物だな、という所。物語の結末もそれを助長させている様に思います。文学的価値はさもありなん、近代小説としての読み易さも印象的でした。2020/07/23
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