出版社内容情報
一九二三年九月一日午前一一時五八分、関東大震災が発生。おさまらない揺れと迫り来る火災、そして朝鮮人襲撃のデマ……。画家、文筆家であった水島爾保布は地震発生直後から、人々がしだいに分別を取り戻していくまでの様子を書き記すが体験記「愚漫大人見聞録」は発禁処分で世に出せなかった。幻の体験記は何を語るのか。
内容説明
百年前、東京の下町で何が起きたのか。迫る猛火、飛び交うデマ、そして暴力。震災の諸相をニヒリズムの目をもって観察、記録しながらも、検閲によって葬られた「愚漫大人見聞録」を全文収録し、注と解説を加える。
目次
翻刻 水島爾保布「愚漫大人見聞録」(日比谷公園にて 江戸っ子のやせ我慢;安政地震の昔語り 根岸の古老「ボー鱈先生」;浅草の混乱 大学生「ケーさん」の報告;津波の流言 迫る火の手;震災と革命待望論 興奮する「カン君」;水島、「破壊消火」に加勢す;朝鮮人暴動の流言 殺気だつ人々;上野公園の鳶口 襲撃された画家;流言と日本人 「鉄砲町」の友達;一缶五円のウエハース 画家「ジローさん」の話)
著者等紹介
前田恭二[マエダキョウジ]
1964年生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。読売新聞社勤務を経て、武蔵野美術大学教授。専門は日本近現代美術史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミノムシlove
8
岩波ブックレット。水島爾保布(みずしま・におう)のイラストは100年前とは思えない。2023/10/18
Aby
4
関東大震災の流言と人の行いを「漫文調」でまとめた人がいた(当然,発禁処分となる).昔の人がどうかしていたのではなく,今でも同じことをする人はいるだろう.人間,そう簡単には変わらん.◆検閲官の書き込みがある正本が残されていることも驚きだ.2024/09/30
みさと
3
大正時代の画家・文筆家、水島爾保布が体験した関東大震災の記録「愚漫大人見聞録」。しかし、当局の検閲によって発禁処分を受けた。検閲官が赤鉛筆で引いた傍線が記された原本が国会図書館で発見された。その全文と解説。江戸期のニヒルさに倣いながら書かれた観察と記録。迫る猛火、飛び交う朝鮮人が暴動を起こしたとのデマ、今こそ革命だと叫ぶアジ、そして暴力。そんなのヨタだと見抜く人の存在とともに、百年前の市井の雰囲気が表れている。水島は、流言を生み信じさせるのは集団的な潜在心理だと言う。現代は?同じことが起きないと言えるか?2023/11/13
メイロング
3
当時使ってたことばがそのまま用いられることによる、VR的な没入感。関東大震災は昔の話という前提を取り払い、明日もわからない混乱の最中の民衆のひとりとして震災を体験できる。そして問題の第7章、当時の人間がヤバいのではなく、明日大地震が起きたら同じことしでかしそうな危険さがヤバい。「おわりに」で触れる現代の陰謀論とリンクする恐ろしさに心震える。本当によく国会図書館に残っててくれたもの。この人の長男が今日泊亜蘭というのもびっくり。2023/10/03
コオロ
2
関東大震災は、被災地が首都ということもあり文豪の体験記が数多く残る震災で、先日もそのアンソロジーを読んだ。お互いの体験記に作家が登場し合い作家同士で完結するようなものが多かったが、この本では、市井の人々に目を向け詳細に記した結果、発禁を食らった体験記を取り扱っている。最初はブラックユーモアを散りばめているが、次第に「洒落にならん」と思い始めたのか、デマが生じて収束するまでを冷静に記録する方にシフトしている。水島氏は発禁後もこの体験記を擦っているようだが、冷笑目的ではなく、ライフワークだと感じていたのかも。2024/01/20