出版社内容情報
貧富の差,皮膚の色による差別,戦争の悲惨,孤独な老人たち,両親の離婚など,現代社会がかかえるさまざまな問題を,若い人たちに考えさせる意欲作.散文詩のような簡潔な文体でつづった14編.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
61
今もどうしようもできない現実を切り取ったこの短編集には嘘っぽくてちゃっちなハッピーエンドなんてないし、現実はほっとかれたままだ。でもだからこそ、いつまでも心に響くのだ。表題作の慈悲を怠惰に施す富裕層への貧者の誇りはとても尊いと思う。一方で富裕層のみみっちい事よ!「ぶす」なんかは長女・長男という役割を家族から求められ、何とか振舞っていたものの、悪意もないがそうする事でどうなり、それを見た相手がどう思うかを考えもしない妹弟や彼らを甘やかす親に不満や恨みが一気に爆発した事のある人は、その時の事を思い出すだろう。2016/12/22
たつや
38
まえがきに全部本当のことですとある、12編の短編集ですが、リアルな人間が様々なシチュエーションで描かれていて、素晴らしい。また読みたい。2017/01/15
ぱせり
9
子どもたちの間でどこでもそんなことは起こっているだろう。でも、考えてみれば、根深い問題を抱えていることに気がついてはっとしたりする。それを不発の爆弾みたいに抱えて、私は大人になってはいないか。もし名前をつけて呼ぶなら、肌の色、富と貧困、戦争など。でも、それで「ああ」と言いたくない、一人ひとりの子どもがいる。2020/09/28
twinsun
7
これはあんまりと思う描写が続く短編集だが、違和感を覚える者は奪う側と知るべきだ。持つべきものは友人ではないような世界を垣間見ることでこの本を読む機会を与えられるほどの子どもたちはステレオタイプな思考から奈落の底に突き落とされるかもしれない。答えはすぐに出さなくともよい。ただし時間をかけてでも闇に眼をそむけず前を歩き続けることだ。知らず通り過ぎた闇、気づいても目を背けている闇のいかに多いことか、恥じ入るばかりである。最後の「何日生きられたか」に著者の子どもたちの未来に託す温かい眼差しを感じた。2022/11/08
ムーミン2号
7
児童文学が何もかもめでたしで終わらない、そうであるばかりでは意味がないことを端的に示した作品。既にまえがきにこの本の特徴は余すところなく述べられてる。「ここに書かれているのは本当の話である。だからあまり愉快ではない。ほんとうの話はめでたく終わるとは限らない。答えはめいめいが自分で出さなくてはならない。」14の短編に答えを出すための物語が詰められている。しかし、たった1%でも幸せを感じることができれば、人は生きていける。そうなるよう、一緒に生きることが困難でも、お互いを高めていけるよう努力しないといけない。2018/01/06