出版社内容情報
日本最大の浪漫作家といわれる泉鏡花の文学は,「日本語の達し得る最高の表現」とも称される.その作品は幻想的で艶麗な妖しい魅力で読者の心を捉えて放さない.名作60篇を選び抜き,新しい観点からの解説を付す.〈第2次刊行〉
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
5
「夜叉ヶ池」を再読。泉鏡花が幻想譚において読者を逢魔ヶ時の世界に連れ込む手口は大きく分けて二種類あります。一つはオノマトペや歌をきっかけにして、すっと世界を変えてしまう。「天守物語」「光簪」などです。そして徐々に連れて行くのが「高野聖」や「夜叉ヶ池」などです。龍の鱗の紛れ込む水、竜神と交わした鐘つきの約束、赤く紅い蟹が人の姿であらわれ人に捕まった鯉を助ける。まるで歌のように書かれた話に読み手が酔ったときに雪姫はあらわれます。恋と鐘つきの約束にはさまれる雪姫は龍の心を表に出し……激しくも純粋な世界です。2015/07/04
井月 奎(いづき けい)
3
「海神別荘」を再読しました。美女を娶る海の公子は悲しみを忌み嫌い、恋や思いのいちばん澄んだところをのみ尊ぶ。人の世の、世の人の繕った情を鼻で笑い、恋に殉じた八百屋お七を「わたしは大好きな女なんです」という。鏡花節がもうあちらこちらにちりばめられていて素晴らしいです。戯曲なので話し言葉で書かれていて小説より読みやすいです、が、やはり不思議はきちんとある。最後のセリフも読みようによっては不思議、「女の行く極楽に男は居らんぞ、男の行く極楽に女は居ない」ええっ?そうなの?2015/05/21