出版社内容情報
核開発を牽引する「偉大な国」で、安全保障や経済発展のために犠牲にされ、環境汚染の最前線で生きるアメリカ先住民の人びと。「最大多数の幸福」を名目に、いかに彼らの存在が不可視化されてきたか。セトラー・コロニアリズムによる支配の構造と、それに対する粘り強い抵抗の歩みを、長年の調査をもとに描き出す。
内容説明
核開発を牽引するアメリカで、国の安全保障や経済発展のために犠牲にされ、環境汚染の最前線で生きる先住民の人びと。彼らの存在を不可視化してきた収奪と差別の歴史を、セトラー・コロニアリズム(入植植民地主義)による支配の構造として捉え、粘り強い抵抗の歩みを描く。
目次
1章 セトラー・コロニアリズムの国の核開発
2章 ハンフォード・サイト 汚染される先住民族の聖地
3章 ハンフォード・サイトの記憶 不可視化される環境汚染
4章 ウラン開発とナバホ・ネーション
5章 ネバダ実験場の地理空間 大地に刻まれるクレーター
6章 骸骨の谷から見える未来
7章 核開発とセトラー・コロニアリズム 環境正義への歩み
著者等紹介
石山徳子[イシヤマノリコ]
1971年東京都生まれ。日本女子大学文学部英文学科卒業。ラトガース大学大学院地理学研究科博士課程修了(Ph.D.地理学)。専門は人文・政治地理学、地域研究(アメリカ合衆国)。明治大学政治経済学部、大学院教養デザイン研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ばんだねいっぺい
35
どこで核実験をしよう?そうだ、先住民の土地でやろうというひどい話。また、それにより傷つけられた自然や文化的なアイデンティティーなどは二度と元の姿に戻らないが、施設の建設が保護区域の役目を果たしているという見方もできるにはできるそうだ。「犠牲区域」という言葉、うーん、核のゴミは、国民のゴミでもあるはずで、そもそも、核を使わないという決定が必要となってくるが、今さら感で喉が詰まる。2021/07/25
kawa
32
広島、長崎に落とされた原子爆弾開発拠点地、ワシントン州ハンフォード・サイト、アリゾナ州ナバホ・ネーション、ネバダ州ユッカ・マウンテン、スカルバレーは、米大陸の様々な先住民族のふるさとの地だが当時から放射能汚染にみまわれ健康問題で苦しむ人々が多いと言う。民主主義国家のお手本のアメリカとしては、ほっかぶりで触れて欲しくない問題。そこに気鋭の人文学者が各地を訪れ鋭く斬り込む。様々な学術誌に掲載された論文を一冊にまとめた書、読み始めはちょっと躊躇なのだが思いのほか読みやすい。人間の差別心について考えさせられる。 2024/09/04
BLACK無糖好き
22
アメリカ西部と南西部の核開発の「犠牲区域」で、生活環境がリスクにさらされ続けてきた先住民族の抵抗の記録。対象となるエリアは、マンハッタン計画の拠点の一つであるハンフォード・サイト、ウラン開発の一大拠点だったナバホ・ネーション、ネバダ核実験場、高レベル放射性廃棄物の最終処分場候補地として名指しされたユッカ・マウンテン、中間貯蔵施設誘致の現場となったスカルバレー。◇アメリカの核の傘に身を置く者として、アメリカの核戦略がどのような犠牲の上に成り立っているのか、少なくともその構図を認識しておくのも大事。2021/06/15
Ecriture
12
名著。BLM運動が盛り上がったのは黒人が白人の財産として可視化される抑圧の歴史を歩んだからで、警官による殺害割合が黒人より高いのに先住民の運動が注目されないのは先住民が「消去の論理」による抑圧の歴史を歩んだからという指摘があまりに鮮やか。トランプ政権下のブラックライヴズマター運動にて、アメリカは移民の国なのだから黒人の命を尊重せよというスローガンを掲げる者たちがいたが、そうした善意の人々による「アメリカは移民の国」という認識は、アメリカ先住民の存在と歴史を軽視しており、先住民族を抑圧する。2022/03/26
Fernweh
4
p.219 多面的に広がる、環境正義の空間における「環境」とは、生きものの身体、事物の個体から、文学的イマジネーションの世界、家族、多様な種、地域、国家、そして地球に至るまでの、さまざまな地理スケールで、複雑な相互関係を築きながら展開し、常に変化のプロセスにあるダイナミックな営みである。こうした営みが、資本主義、植民地主義に根ざした差別や格差の構造、制度やイデオロギーと絡んで、弱者を周縁化し、抑圧するシステムに直結していく。このメカニズムを認識し、みずからの関わりについても、批判的に分析すること、それが