出版社内容情報
隣のおじさんのことのように毎晩ゴヤの同行を伝える父、バルセロナで藤原定家の日記に呻吟する父、サルトルや武田泰淳や愛犬の死に打ちひしがれる父……『方丈記私記』『ゴヤ』などで知られる作家の面影を、娘の顔から追想する。
内容説明
隣のおじさんのことのように毎晩ゴヤの動向を伝える父、バルセロナで藤原定家の日記に呻吟する父、サルトルや武田泰淳や愛犬の死に打ちひしがれる父、田植えのように夜中トントンと原稿用紙の升目を埋めていく父…。『時間』『インドで考えたこと』『方丈記私記』『ゴヤ』『路上の人』などの作品で知られる堀田善衞。「ただの文士」であろうとした作家の生きた姿を―その創作への情熱、社会に開かれた魂、少しユーモラスな日常を、娘の目から追想する。
目次
サルトルさんの墓
芥川賞と火事
モスラの子と脱走兵
ゴヤさんと武田先生の死
スペインへの回想航海
アンドリンでの再起
埃のプラド美術館
夢と現実のグラナダ
バルセロナの定家さん
半ばお別れ
著者等紹介
堀田百合子[ホッタユリコ]
1949年、神奈川県生まれ。堀田善衞長女。慶應義塾大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんすけ
20
堀田善衞は我儘なところがあるが、家族にとっては憎めない人だったのでないか。 善衞の長女百合子さんが父の思い出を語ったこのエセー集から、それが読み取れる。 繊細で美しい文章を綴る善衞だが実物は結構ズボラだったようだ。 善衞とれい夫人は互いに二度目の結婚だった。れい夫人は前夫との離婚手続きを済ませていたのに、善衛はまだやっていなかったという。善衞の離婚は、れい夫人が芥川賞で得た金を使い奮闘した結果成立したらしい。 こういう話を聞いても堀田善衞へ愛想が尽きることはない。 憎めない人間には、こんな人が多いからだ。2022/01/11
浅香山三郎
13
歿後30年の2018年刊。この年に、堀田善衛展が富山県高志の国文学館で開催されたり、同館の編になる『堀田善衛を読む』(集英社新書)が出たりした。娘の眼からみた作家の仕事ぶりを記す。私は、堀田さんの随筆ばかり読んでゐるが、定家や方丈記、作家同盟、ゴヤ、スペインといつたこの作家のときどきのテーマや仕事の舞台裏がよく分かるのがよい。著者の文体が堀田善衛譲りのユーモアのセンスに富んでゐることに加ヘ、ベトナム脱走兵を匿つた体験のことなど、作家堀田善衛の全体像を知る証言としても面白く読んだ。2020/05/11
moyin
6
武田百合子ー武田泰淳という延長線で、自然に堀田善衛の上海日記を読んだ。堀田さんの娘が書いた回顧で、中国関係の本だけでなく、もっと大きな世界に身を投じた文学者の姿を眺めた。その姿、その気骨に感動する。堀田善衛のほかの作品も読んでみよう。2022/09/21
FK
5
読みやすかった。私はわずかに三冊しか読んでいない。『路上の人』『19階日本横丁』『時代の風音』。そろそろこれから本格的に読んでいこうと思う。小説には、その作家の生き方・人生観というものが色濃く反映されるはずだ。氏は基本的にリベラルで、しかもその行動において勇気のある人だったようだ。/「作品の善し悪しは、編集者の善し悪しで半分方決まる! 大事だ」/父の極秘内輪話です。(P.197)【何でもひとりでやっていけそうに思えてしまうが、実際には陰の立役者がいっぱいいるということ。それぞれに役割というものがある。】2019/07/09
トビケ
0
20年程前、堀田善衛氏の本を読み漁り、古本屋で探し続け、全集は将来の自分に取っておくのだと思っていたことを思い出した。あれから、自らもそれなりの年月を経て、あれこれ経験し、旅をしてきたのだから、そろそろ全集に手をつける時が来たのではないか。久し振りに触れる堀田善衛氏の筆遣いや、その魂の向かう先の描写に、あの頃の興奮というか、震えた気持ちが蘇る。20世紀の味わいを再び。全集を読んでから、またこの本を手に取りたい。2022/01/08