出版社内容情報
夏の強い陽ざしのあたる庭。暗い部屋で泣く大人たち。学校で配られる真新しい教科書『民主主義』。敗戦直後の子供の記憶とともに出発し、憲法を自らのモラルとして選びとった著者が、現在に連なる「われらの時代」を鮮やかに描く。私小説論、絵画論、駅売店員へのルポなども含む、小説と相補う想像的営為であった批評活動の原点。
内容説明
戦後を継ぐための(Re‐)Read。「小説とともにふたつの根本の構造材をなす」、もうひとつの想像的活動の原点。著者自ら編んだエッセイ・評論集成。
目次
1(戦後世代のイメージ)
2(強権に確執をかもす志;ぼく自身のなかの戦争 ほか)
3(私小説について;戦後文学をどう受けとめたか ほか)
4(われらの性の世界;『われらの時代』とぼく自身 ほか)
5(独立十年の縮図―内灘;失業に悩む旧軍港―呉 ほか)
6(今日のクラナッハ;裸体の栄光と悲惨 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
聖龍
6
大江健三郎氏が20代後半の頃に発表したエッセイ、評論をまとめた時局評論集。比較するのも烏滸がましいが、20代後半の頃の自分と比べ同氏の時局に対する意識の持ち方の高さに愕然とする。中でも心に強く残ったものは、「プラットフォームの娘たち」と「日本に愛想づかしする権利」という評論である。前者は鉄道弘済会で働く女性たちの過酷な労働環境をルポルタージュ風に取り上げた評論であり、後者は広島で原爆被害にあい、白血病で亡くなった青年とその死を果無んで自ら命を絶った婚約者を取り上げた心傷むエッセイである。古びてなどいない。2023/11/28