感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
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文字のない時代の人々のことばが鳥のように飛翔し、繰り返しのない一回性の歌だったとすれば、文字の出現はこの鳥を串刺しにして凍らせた。記録や複写が可能になる一方でそれはことばの色合いも性別も失わせた。アルファベットの分かち書きが始まる12世紀を境にこの傾向に拍車がかかり、宣誓や結婚証明など文書の権威が増大した。分かち書きが黙読を可能にしたことで、ことばは息吹を失った記号となる。荘子が古代の聖人の書物を古人の糟粕と断じたのとつながる。春琴抄やユリシーズの句読点の廃止は、生きた声をよみがえらせる試みだったか。2018/05/05