内容説明
一見平凡とも見える短い生涯のなかでカフカは数冊の小さな本を出版し、死後には3編の長編小説と膨大な量のノートや日記が遺された。カフカにとって「書くこと」とは何だったのか?カフカは何を追求し、何を描こうとしていたのか?「カフカを探求するには、カフカを読み、悩み抜く以外に方法はない」と言い切る著者が、いたずらな解釈にはしることなく、カフカ理解の基本となるポイントを目配りよくまとめた1冊。身体、制度、宗教などを軸に、表現技法の特徴はもちろん、伝記的事実や時代的、文化的背景もふまえながら解説する。じっくりとカフカの小説が読み返したくなる絶好の文学ガイド。
目次
1 生涯と神話
2 カフカを読む
3 身体
4 制度
5 最後のもの
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はな
12
カフカの難解な作品を読み解く手助けになれば、と思い手にした本。父との確執や結婚への躊躇い、宗教への深い関心などカフカの人となりが知れて良かった。カフカが現実に体験したことが作品に色濃く反映されているのだと感じた。しかし、『城』が彼の遺稿を他者が断片的に推測しながら繋ぎ合わせたものだと知って落胆を感じた。カフカが 生きていたならどんな『城』を完成させたのか、それを味わえないのが悔やまれる。2016/01/17
鷹図
11
カフカの育った境遇や当時の風俗から「身体性」を、直筆の手紙や交遊関係から「ジェンダー」について、また抑圧者として知られた父との関係から「制度」を読み、作品との符合を論じる。当時ドイツでの健康ブームにカフカも影響を受けていたというのは面白い。後のナチス台頭を鑑みると、元からそういう土壌があったんだなと思った(ナチの健康奨励)。確かに図式的だし、作品を飛び石的に扱う論法にいささか中弛みを感じたが、最期の『城』の解説(到着の謎)が素晴らしい。それこそ挫折中の城にもう一度挑戦したくなるほど(ゴニョゴニョ2011/11/11
masabi
8
【概要】カフカの生涯と読解のテーマを身体・制度・信仰に区分して解説する。【感想】本文は確定したテクストとしてカフカを読む。だが、訳者解説では残された未完の長編は草稿の段階にあり、作品として世に出るために恣意的な編集をせざるを得ない点に注意を促す。「カフカを探求するには、カフカを読み、悩み抜く以外に方法はない」という身も蓋もない一文の通り。家族の支配関係から筆を進めて官僚制と接続し、黙従して初めて官僚機構が権威を持つ構造を明らかにする。「城」を読んだら再読したい。カフカの名声が高まった経緯を知れた。2024/03/07
Tonex
8
初心者向けの文学ガイド。「Very Short Introductions」というイギリスの教養書シリーズの日本版。しかし、Very Shortというほど短くないし、入門書にしては内容が高度。カフカの代表作を一通り読んでないと内容が理解できないと思う。▼『新しいカフカ』や『カフカらしくないカフカ』を書いた明星聖子氏がわざわざ翻訳するくらいだからものすごく面白いのだろうと期待して読んだが、それほどでもなかった。明星氏が解説やあとがきで、この本の内容自体にほとんど触れていないあたりに何やら大人の事情を感じる。2015/12/08
あなた
6
カフカ入門にしてはあまりに最適。図式的にすぎるきらいはあるが、きちんと「変身」という突拍子もないだしぬけの事態も明快かつわかりやすく身体論的・文化論的に位置付けている。またセクシュアリティやジェンダーに関する指摘もそれを語らずして語るカフカであればこそ非常に重要。文庫の解説もこれぐらいのサクサク感が欲しい2010/08/17