出版社内容情報
麻薬と犯罪に浸食され、10年間に15万人以上の犠牲者が生み出されているメキシコ麻薬戦争。格差の増大と政治の腐敗、そして暴力に抗い、未来を切り開こうとする人々の姿を報告する、最前線からのルポルタージュ。
内容説明
メキシコ社会を震撼させる「麻薬戦争」。格差の拡大や国家の機能不全を背景に、犯罪と暴力の嵐が吹き荒れ、10年間に15万人以上の死者が生み出されている。国際的な巨大犯罪組織と化した麻薬カルテル間の抗争、それを殱滅しようとする政府軍や警察も交えた戦闘…。戦争状態に陥るメキシコの現実を、そこに生きる人々の姿を通して報告する。
目次
1 麻薬戦争の町シウダー・フアレスに生きる(カルテルと軍と警察の町;子どもたちは遊び場を失った ほか)
2 子どもたちを飲み込む暴力(殺し屋になった少年;非暴力を説く元ギャング・リーダー ほか)
3 立ち上がる人々(疑惑の大統領と市民運動;最初に立ち上がった者たち ほか)
4 マフィア国家の罠(シウダー・フアレス、再び;暴力のなかで育った子どもたち ほか)
5 国家の再建(マフィア的平和;対話するメキシコ ほか)
著者等紹介
工藤律子[クドウリツコ]
1963年、大阪府生まれ。ジャーナリスト。『マラス―暴力に支配される少年たち』(集英社)で第14回開高健ノンフィクション賞受賞。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
76
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』を観た時、ラストシーンで少年の「ああ、またか・・・」と諦めを帯びたような瞳に衝撃を受けた。その舞台となったフアレスを主に麻薬戦争の庶民からの実情を取材した本。カルテルの撲滅が孤児を増やし、子供や失業者が殺し屋、売春婦、運び屋、売人となり、用済みになれば、殺される。監視され、家族を盾に脅され、集団的誘拐や殺人も軍やカルテルと繋がった警察によって隠蔽される実情に絶句。従来のグローバル資本主義が逆に世界的不和を撒き散らし、閉塞を迎えつつある今だからこそ、読まれるべき本2018/01/02
巨峰
69
ドン・ウィンズロウの「犬の力」三部作を読んで、メキシコ麻薬戦争の残酷さ悲惨さを知った。そのうえで日本人ジャーナリストの書いたノンフィクションを読んでみた。そこに描かれているのは麻薬カルテルより、国民を保護すべき警察や検察・行政のどうしようもない腐敗だ。その一部はカルテルに取り込まれ、というよりカルテル自体になってしまっているという印象。その中で、より社会を改善しようと苦闘するメキシコの一般の人たちの姿を取材者は追う。その努力の報われることを。2021/03/06
スー
19
カルデロン政権から始まった麻薬戦争により10年間で15万人以上が死亡し3万人が行方不明と甚大な被害を出したのに、いまだに終わりが見えない。軍や連邦警察や警察とカルテルの戦いは地元民を巻き込みカルテルと警察による誘拐、殺人が増え治安の悪化を招く最悪の状態になり、ミチョアカン州ではドキュメンタリー映画の「カルテルランド」で登場するミレレス医師の自警団が活躍するが政府による懐柔で分裂しカルテルに取り込まれてしまう。働き手を失い貧困に喘ぐ子供達は手軽に稼げるカルテルの仕事を請け死者が増えまた新たなカルテルの構成員2018/07/04
DEE
11
メキシコの麻薬カルテルの話を読んでいると、この国に果たして未来なんてあるのかと思ってしまう。 警察や司法はあてにならず、下手に騒ぎ立てると誘拐され殺される。 カルテル同士の争いに警察や軍も加わり、さらに買収の応酬がありいったい何を信じたらよいのかわからない状態。 しかしこの本はそんな末期的な状況で歯を食いしばって立ち上がった個人や団体にフォーカスした内容。 そういった活動は常に命の危機があるけど、彼らは何もしないで死ぬより行動を起こして死ぬことを選んだ人々。 その勇気が国を変えることを信じたい。2017/10/05
しゃんしゃん
8
重く衝撃的であり未来を切り開くための本だった。2016年メキシコの殺人事件件数は23,000件。内線のシリアに次いで世界第2位となった。国内で行方不明の家族を探すグループは42団体。この国で起きている誘拐事件の65%は麻薬犯罪組織の犯行だが残りは海兵隊を含む政府軍や地方警察、連邦警察によるものだ。13歳の少年の将来の夢は「パパのような殺し屋になる」ことだと言う。殺人は日常の出来事だ。根本的な解決は、お金に振り回され、それを基準に価値判断する世界との決別、人々の連帯が支える世界を作ることだと著者は言う。2017/09/23