出版社内容情報
理性の営みとしての哲学にとって,「非合理性」はある意味で最も重大なテーマだ.本書は,精神医学や心理学,行動経済学などの成果を参照しながら,非合理性に関する常識を批判し,この多義的な概念の諸相を分析する.人間の不可欠の部分として非合理性を位置づけ,情動,認知,判断,幸福や人生の意味などのテーマに新たな光をあてる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
禿童子
35
カントやロックなどの近代哲学で確立された「理性的人間」像にあてはまらないのが現実の人間の思考や行動である。心理学や神経科学の最新の知見、特にアントニオ・R・ダマシオの提唱するソマティック・マーカー仮説による意思決定に果たす感情の役割、マイケル・ガザニガによる作話の仕組み「インタープリター・モジュール」、また根拠のない楽観視が有用な場合もある「ポジティブ幻想」など、示唆に富む内容が多い有益な書。ある種の「非合理的な能力」は天の恵みである、という結論が印象深い。各章末尾に文献案内があり入門書としても役に立つ。2019/09/20
愛楊
5
Lisa Bortolotti "Irrationality", Polity Press の全訳。著者は心理学者である。ポジティブ幻想が生物学的・心理的に適応的であることをデネットが指摘していることなど、心理学的成果を合理的主体という哲学的概念と絡めて論じていて非常に良かった。これは実験哲学の一つであるのではないだろうか。西洋近代の合理的主体という存在はあくまで理想であって、記述的には人間は非合理的な存在である。このような人間像から目を逸らし続ける哲学に、記述的形而上学を展開することはできるのだろうか?2024/11/17
takao
2
ふむ2021/03/10
hryk
1
精神医学や心理学などの分野における「非合理性」に関する基礎的議論が解説されている。大変勉強になった。2020/08/30