反転する福祉国家―オランダモデルの光と影

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  • サイズ B6判/ページ数 288p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784000244664
  • NDC分類 364.023
  • Cコード C0031

出版社内容情報

「オランダモデル」と言われる雇用・福祉改革が進展し,「寛容」な国として知られてきたオランダ.しかし,そこでは移民・外国人の「排除」の動きも急速に進行している.この対極的に見えるような現実の背後にどのような論理が潜んでいるのか.激動の欧州を読み解き日本社会への示唆を得る.

内容説明

一九八〇年代、ワークシェアリングを通じて経済危機を脱したとされるオランダは、近年は女性や高齢者、障害者、福祉給付受給者らの就労を促す雇用・福祉改革を進め、国際的な注目を浴びている。ワーク・ライフ・バランスやフレキシキュリティを促進するなどの先駆的な改革は、福祉国家再編や社会的「包摂」の成功例とされている。しかしオランダは同時に、反イスラム感情の高まりとともに「移民排除」と「移民統合(同化)」へと大きく舵を切り、移民・難民政策を転換した。その背後には、大衆的な支持を集める新右翼政党の躍進があった。社会的「包摂」を積極的に推進しているオランダが、移民・外国人の「排除」を進めているのはなぜなのか。一見すれば対極にみえる現象に通底する論理は何なのか。「モデル」(光)と「アンチ・モデル」(影)の交差するオランダ政治を考察し、現代社会の構造的変容を浮き彫りにする。

目次

第1章 光と影の舞台―オランダ型福祉国家の形成と中間団体(現代政治の歴史的文脈;オランダにおける「保守主義型福祉国家」の成立;中間団体政治の形成と展開)
第2章 オランダモデルの光―新たな雇用・福祉国家モデルの生成(大陸型福祉国家の隘路;福祉国家改革の開始;パートタイム社会オランダ;ポスト近代社会の到来とオランダモデル)
第3章 オランダモデルの影―「不寛容なリベラル」というパラドクス(移民問題とフォルタイン;フォルタイン党の躍進とフォルタイン殺害;バルケネンデ政権と政策転換;ファン・ゴッホ殺害事件―テオ・ファン・ゴッホとヒルシ・アリ;ウィルデルス自由党の躍進)
第4章 光と影の交差―反転する福祉国家(福祉国家改革と移民;脱工業社会における言語・文化とシティズンシップ)

著者等紹介

水島治郎[ミズシマジロウ]
1967年生まれ。千葉大学法経学部教授。専門はヨーロッパ政治史・ヨーロッパ比較政治。東京大学教養学部教養学科第三卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。ライデン大学客員研究員、甲南大学法学部助教授などを経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

くまさん

31
オランダが進めてきた就労重視の福祉の充実は、あらかじめ労働市場に参入できていた人たちとそれ以外の「移民」との選別を免れることができなかった。モノからサービスへ経済の重心が移る「脱工業化」のなかで「市民」に求めれらるのは、自国語と自文化への理解と国際競争力の向上に貢献することである。それはその資質のない者を除外するという代償をともなう。一国の政策モデルとその変遷を緻密に分析し、その功績の影に光を当てる著者のたぐいまれな知性は、世界に蔓延する排外主義と、自己保存の論理が必然的に背負う他者の排除をも見晴るかす。2019/01/29

ゲオルギオ・ハーン

27
1980年~2000年までのオランダにおける福祉政策と以後の変化を政界の動きを絡めながら解説している。興味深いのはかつてはEUの拡大もあり、多様性を認め、貧窮対策は広い給付所得で対処していた。しかし、EUに入っているメリットがほとんどなくなり、給付政策が社会的に大きな負担になってくるとオランダは転換点を迎える。給付ではなく、就労することが重視されると産業構造の変化もあり、いかにオランダ社会でコミュニケーションがとれるか、いかに同国の社会を理解し、適応できるかが国家的な試験でチェックされるようになる。2022/05/12

春ドーナツ

17
そもそも。辞書を引く。福祉:(公的扶助による)生活の安定や充足。また、人々の幸福で安定した生活を公的に達成しようとすること(岩国第七版)。何となく、福祉が充実していると寿命が延びそうな気がしませんか? 2016年の統計(WHO)によると、オランダの平均寿命は世界17位。81.6歳。平均化することで隠れてしまう要素があることに留意しておこう。算数苦手だけれど分母は影響するのかな。同国は日本の十分の一。改めて欧州版福祉国家とは何か。ヒント1:キリスト教民主主義政党の躍進。ヒント2:伝統的な教会運営の救貧事業。2019/02/01

あんころもち

11
1990年代世界を席巻した福祉改革ブーム。その中でオランダは、オランダ病と呼ばれた経済・財政危機から脱することができたとして、「オランダモデル」と称揚された。本書はそれを「光」として描き、「影」としてその時代以降噴出する排外主義を描く。そして、その「光」と「闇」の共通項として、シティズン教育でおなじみ「参加の論理」を抽出する。本書はオランダモデルをむやみやたらに賞賛する空気に、全く異なる切り口から実証的に水を差したあたりは評価できるし面白い。2016/08/12

左手爆弾

6
先進的・理想的な福祉国家であったはずのオランダの現実は、必ずしも美しいものではない。オランダの伝統である中間団体による議論はやがて既得権となり、対応が遅いと批判されたりする。「ポルダー・モデル」と呼ばれるパートタイムも、一面ではキリスト教保守的な価値観に支えられていた。そこに現れたのが右派ポピュラリスト、ピム・フォルタインだった。フォルタインはイスラム教を攻撃したが、いわゆる保守的な右派ではない。民主主義や自由を自明の価値として、それに反するイスラム教を排撃する、という形をとる。2013/03/03

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