内容説明
この国の精神保健の明日を描くために。精神保健最先進国イタリアからの渾身のルポと、日本への提言。第1回フランコ・バザーリア賞受賞(2008年)記念作品。
目次
第1部 日本の悪夢―一九七〇年、鉄格子の内側に潜入(恐怖と絶望と退屈の病棟;私設強制収容所;不肖の息子とその親)
第2部 目からウロコ―一九八六年、精神保健先輩国を訪ねる(精神病院を廃絶?;世界の精神保健事情;バザーリアの後継者を招く)
第3部 精神病院の終焉―二〇〇六年夏、ローマの友からの便り(取材意欲再び;タンスの骸骨;トリエステ燃ゆ;歴史的妥協;トリエステの現在;バザーリアってこんな人)
第4部 地域サービス時代の到来―一九九〇年代以降のイタリア(一八〇号法生き残る;首都ローマの改革;司法精神病院の街;政変で精神保健が変わった;残酷物語はお伽話に昇華した;改革のキーワードは脱・施設化)
第5部 日本の地域精神保健―二〇〇九年、希望への胎動(二人の先達その後;青い鳥を求めて)
著者等紹介
大熊一夫[オオクマカズオ]
1937年生まれ。ジャーナリスト。元朝日新聞記者、元大阪大学大学院人間科学研究科教授(ソーシャルサービス論)。1970年、都内の精神病院にアルコール依存症患者を装って入院し「ルポ・精神病棟」を朝日新聞に連載(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みっし
11
「むかし Mattoの町があった」を大学で自主上映するにあたり読みました。ハンセン病などにも通じる、社会からの隔離。社会から隔離し、偏見を押し付けることで、人々は何も知らないまま社会に共に生きる仲間(隔離される人たち)を傷つけていく。国が悪いとか、精神科医が悪いとかいう議論じゃない。今何をすべきか、これからどうしていくべきか、日本はイタリアに学び考えていかなければならないと思いました。 2013/07/17
けんとまん1007
9
ここからは、いろんなことが読み取れるし、思いも拡がる。日本の遅れ云々は数々あって気が重くなるが、そんな中の典型の一つかもしれないと思う。本の中でも紹介されている向谷地生良さんの言葉「”囲”学=囲い込みの医学・”管”護=管理の看護・”服”祉=服従の福祉」だ。人を人ではなく、ものとしてしか扱わない姿勢。無知からくる偏見と、臭いものには蓋という姿勢。本当に知らないということは怖いことだと思う。あと、この本で書かれている取組みのほうが、コストパフォーマンスも随分良いということ。これは、説得性の強い観点だと思う。2011/08/04
春風
8
バザーリア法によって精神病院を廃止したイタリアのルポ。『ルポ・精神病棟』の著者なので一面的なのはしょうがないけど、反バザーリア派にも取材してほしかったな。2011/08/18
sabato
7
イタリアで1978年に行われた精神保健福祉改革、180号法(別名バザーリア法)で、イタリアは精神病院を捨てた。それに至るまでの歴史やソーシャルアクションは読んでいても胸が熱くなる。日本のソーシャルワーカーとして恥じる思いももつ。日本は、68年にクラーク勧告を受けたが「斜陽の英から学ぶものなし」と勧告を総無視したが(結果、精神病院大国)、日本は同じように不況のイタリアを見て、「学ぶものなし」と同じような解釈するのだろか。ぜひ、映画『人生、ここにあり!』と合わせて読んで欲しい1冊。2013/10/31
Ken Aura
7
目の前に現れた利用者は、「病人」ではなく、「苦悩する人」「生活に困窮をきたした人」とみる。だから病気に大きなスポットを当てずに、患者の危機的状況を招いた社会的な問題、経済的な問題、人間関係の問題、の解決に主眼を置く。2011/01/07