内容説明
グローバル市場での競争力を維持するために各国があらゆる無駄の切り棄てを余儀なくされる時代。短期的な利益の追求を国家が最優先する状況のなかで、人文学と芸術は無用の長物と見なされている。そのことが私たちの社会にもたらすものとは、なにか。科学技術と同様に重要な、強い経済と繁栄のために真に求められるものを提示する。
目次
第1章 静かな危機
第2章 利益のための教育、デモクラシーのための教育
第3章 市民を教育する―道徳的(および非道徳的)感情
第4章 ソクラテス的教育法―議論の重要性
第5章 世界市民
第6章 想像力を養う―文学と芸術
第7章 追いつめられた民主的教育
著者等紹介
ヌスバウム,マーサ・C.[ヌスバウム,マーサC.] [Nussbaum,Martha C.]
シカゴ大学哲学科、神学校およびロースクール、法学・倫理学教授
小沢自然[オザワシゼン]
イギリス・エセックス大学大学院文学部博士課程修了。文学博士。現在、台湾・淡江大学外国語文学部英文学科准教授
小野正嗣[オノマサツグ]
東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。パリ第8大学文学博士。現在、明治学院大学文学部フランス文学科准教授。作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
31
2010年初出。魂とは、人間を人間的にする、関係を豊かで人間的なものにしてくれる、思考と想像力の諸能力(8頁)。批判的思考力、世界市民として世界の諸問題の取り組む能力、他人の苦境を共感をもって想像する能力(9頁)。文化、集団、ネイションを幅広い視野から考察する能力があってはじめて、民主社会は相互依存の世界構成員として責任を持って取り組むことが できる(13頁)。教育とは知性を刺激し、複雑な世界のなかで能動的に、適切に、思慮深く批判的に立ち働かせること(24頁)。 2014/09/13
sayan
25
前政権で時々言った・言わないの文脈で顔を出す「トリクルダウン」、本書はそんなトリクルダウンを含め経済成長に対して否定的な姿勢をとる。しかし本書は学術書ではなく著者が本文中で示す通り「マニュフェスト」の位置付けだ。本文中で、一方的な経済成長の追及は分配や社会的不平等についての繊細な思考にはつながらない(例:南アフリカ)とする主張は、「社会のしんがり」、「しんがりの思想」と共通する部分があり、非常に興味深い。しかしながら議論は実証的ではなく、著者の個人的経験等を論拠にしたロジックを展開するため、説得力が弱い。2020/09/27
hiroizm
21
近年学校教育から人文学、芸術の授業時間が削減される傾向にあるが、このヌフバウムの著書は、人文学、芸術軽視の風潮が及ぼす様々な影響を示し、平等、公平、博愛、開かれた民主的な制度の維持、継続的な経済繁栄、発展に必要な創造性を有する社会維持のためには人文学や芸術の教育が重要とする論考書。人文学重視の教育論者として古くはソクラテス、フランス思想家のジャン=ジャック・ルソーの欧州人だけでなく、ノーベル文学賞受賞しているインドの作家のラビンドラナート・タゴールについてかなりのページ数で紹介していたのは予想外。2022/09/03
とみぃ
17
本書によると、オバマ前米大統領は教育政策に強い関心を持っていたとのことで、彼の「私たちはこうしたプログラムに一ドル投資するにつき、生活保護費や健康保険費や犯罪の減少といった形でおよそ十ドルの見返りを得るのだ」という言葉が紹介されている。アメリカと日本の違いということを考えると、この言葉はそのまま日本に当てはまるわけではないと思うし、数字の妥当性についても残念ながら検証する能力がない。ただ、面白い視点ではあると思った。2019/09/27
KAZOO
9
題名につられて読んでしまったのですが、私の予想していた内容ではなく、デモクラシーにおける教育とかどのようなものかということがていねいに述べられています。アンチ成長論というものを期待されると肩透かしを食います。それだからといってこの書物の内容が減るものではありません。2013/11/20