内容説明
紀元前四世紀、アレクサンドロス大王の華々しい遠征の陰で、マケドニアに敗れたアテネはどのように生きていたのか。民主政が終焉しギリシアの時代が幕を閉じるまでのアテネの最期の姿を、政治家・弁論家デモステネスを軸に生き生きと描く。一次史料にもとづいて従来の通説を再検討し、新しい見方を提示する。
目次
序章 「黄昏のアテネ」に迫る
第1章 決戦へ
第2章 敗戦―マケドニアの覇権
第3章 対決―「冠の裁判」
第4章 平穏―嵐の前の静けさ
第5章 擾乱―ハルパロス事件
第6章 終幕―デモステネスとアテネ民主政の最期
終章
著者等紹介
澤田典子[サワダノリコ]
1967年、富山県生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京大学助手を経て、静岡大学人文学部准教授。専門は、古代ギリシア・マケドニア史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ピオリーヌ
19
導入はカイロネイアの戦い。この戦いをもって、ギリシアは「自由」を失い、後世の範たるべき一流の時代である「古典期」のギリシアは終焉を迎えたというのが今においても通説的な理解である。著者はカイロネイアの戦いの前238年からラミア戦争の勃発する前323年までの時期のアテネに焦点を当て、また名高い雄弁家デモステネスの生涯にも言及する。カイロネイアの野に著者は1995年に足を運び、カイロネイアの決戦についてあれこれ思いを巡らせている。羨ましい限り。またデモステネスはカイロネイアの戦いに一兵卒として従軍し、2023/09/24
ジュンジュン
12
「デモステネスの人生の最終章でもある『黄昏のアテネ』は、民主政が老衰した『衰退』の時代ではなく、民主政が最期の輝きを放った時代、最期の花を咲かせた時代だった、という見方もできるのではないだろうか。デモステネスは、そんな民主政の最期の輝きを見届けて、逝ったのである」(243p)。カイロネイアの戦い以降、マケドニア覇権下で平和を享受したアテネ民主政の10数年間を、デモステネスを軸に描く。2022/12/23
singoito2
9
読友さんきっかけ。アリストテレスと同年に生まれ没したデモステネスを軸にその頃のアテネのことを教えていただきました。古代ギリシャ哲学の社会的背景を勉強できました。2023/10/04
しめおん
4
マケドニアの台頭前後のアテネ民主制をデモステネスの視点で描いた歴史書。高校世界史だとどうしてもペロポネソス戦争以降の歴史にふれられないため、かゆいところに手が届くような一冊だった。橋場弦の『丘のうえの民主制』と合わせることで、アテネ史とアテネ民主制を概観できるからおすすめ。デモステネス本人の政治的評価が時代によって目まぐるしく変わるように、今でこそ民主制が最良の政治だと思われてるから古代アテネの民主制を高く評価してるけど、最良とされる政体が変わったら、アテネ自体の評価も変わってくるのかなぁと思った。2024/11/04
かわかみ
1
スパルタとの戦争に敗れたアテネの民主政はそのまま腐朽したのではなく、むしろ「法の支配」を採り入れて制度として磨かれた。しかし、その後、ギリシャの諸ポリスには新興のマケドニアが大きな脅威となって立ちはだかった。本書は、カイロネイアの戦いに及ぶ前から、アレキサンダー大王逝去後のアテネ民主政の終焉までを、デモステネスという日本ではあまり知られていない政治家の活動を軸に描いている。カイロネイア戦後は意外にもアテネは平和と民主主義を謳歌していたのだが、かつてソクラテスを葬った衆愚政治の再現も見られたのであった。2020/12/12