内容説明
もの音ひとつしない静寂のなか、おぼろな靄に包まれた、嶮しい、暗い坂道を、ふたりはたどっていた。もう地表に近づいているあたりだったが、妻の力が尽きはしないかと、オルペウスは心配になった。そうなると、無性に見たくなる。愛がそうさせたということになるが、とうとう、うしろを振りかえった。と、たちまち…(「オルペウスとエウリュディケ」から)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
4
牛たちは、正直で、だますことを知らない生き物。無害で、素朴で、労苦に堪えるためだけに生きている(305頁)。飯館村の牛たちとダブらせてしまう。変身、というと、カフカの作品にもあったが、変わらねばならないのは何か。不正直で、騙す、有害で、華美な、労苦しない存在なのだろう。この中では、せめて、騙さないことが大事だと思う。2013/06/07
viola
3
ミュラ、アドニスら、そしてトロイア戦争まで――変身をテーマにした、ギリシャ・ローマ神話の逸話が盛りだくさん。シェイクスピアもかなり影響受けたといわれていますが、グリム兄弟などにも大きな影響を与えたらしいです。 訳も大変分かりやすかった。2010/08/11
kino
0
行きつ戻りつしながら膨大なエピソードを網羅し終着点に着地。話の繋ぎ方が面白い。2011/10/27
ふみ林
0
今を生きる私の価値観からすると登場人物のいずれもぶっ飛びすぎていて、単純な読み物としての面白さがまず浮き立ちます。しかし、時々「あれ、これって現代でもあるあるなのでは?」という考えが浮かぶような箇所があって、果てしない気持ちになります。二千年以上前の物語を読めるという時点で、それは人間という種族としての一種の喜びを得られるものなのかなぁと、思いを馳せたりしました。2023/08/06