出版社内容情報
税制、福祉、中絶、死刑、同性婚、環境規制…。何が正義かをめぐって社会が分裂するとき、解決法はあるのか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
29
2013年初出。トロッコ問題:直観的判断に影響を与える2因。①人身的な力(傍点)の直接の適用で被害者に危害が加えられたのか(突き落すvsスイッチ押す)。②手段として被害者に危害が加えられたか、副次的影響として危害か(トロッコ・ストッパーとしての利用vs巻き添え被害、294頁)。作為と容認の原則:人は、自分が投げるナプキンに対して、それ以外のいきさつでそこに落ちているナプキンより大きい道徳的責任を負うという確信には、有名な哲学の歴史がある(319頁)。2015/12/25
ntahima
23
【県図書12】100%納得とはいかないし、充分に理解できたかも怪しいが非常に刺激的。上下巻を255文字で要約できる筈もなく、その必要もないが一行だけ引用する。『ほとんどのひとが(略)様々な政策について、殆ど理解しないまま躊躇なく意見を述べる』。持論に関しては万言を費やすのも厭わぬが、批判対象に関してはアカ、極右、無能、無知などのネガティブなレッテル貼りに終始する。目先のディベート勝利には有効な戦術かもしれないが、異なる価値観を有する集団間の問題解決戦略としては無効!己の信念が揺らぐことを恐れぬ人にお勧め!2016/01/20
sayan
17
個人の権利とより大きな善の緊張関係の中で、ある行為がなされるべきと感じれば対応する義務に訴える事で、その感情を権利として表現できる、と著者は言う。これは、哲学者P・リクールの「苦しみもまた義務を生み出す。苦しみはそれを見た者に責任を負わせるのだ」に通じる。その時、人はどう判断すべきか。心理的には他者の利害を尊重し他者に同調するよう感情反応を示す。しかし異なる人間集団は異なる道徳的直観を持ち大きな衝突の源となる。そして自分たちの感情を論理的思考力で合理化する、本書で示すその議論過程は示唆的で興趣が尽きない。2018/12/13
izumone
7
読後,明らかに自分の道徳に対する考え方の「枠組み」が変わった。(著者に感謝) ▼今まで,道徳の基盤は情動だと思っていた。これは生物学的な身体(脳)構造に規定される。でも,現在私たちが直面しているのは,別の判断システムの扱うべき範疇の問題もある。この区別を理解できたことは自分にとって大きい。 ▼おそらく,ヒトという動物は,特別な言語を操れる能力を持ったために,圧倒的な文化を構築すると同時に,情動システム(「オートモード」)による道徳判断だけでは対応できない事態に直面することになってしまったのだろう。2015/12/28
人生ゴルディアス
5
上巻よりやや不満の残る下巻。トロッコ問題はもう少しまとめられた気がするし、結論の「人間はあほなので副次的(な悪い)結果をうまく認識できない」ために、スイッチは押せるが歩道橋から人は落とせない……から話を進めるべきだったのでは。好感が持てるのはやはり人間の脳機能などから出発している点で、仮説→検証を可能な限り経ていること。どんな価値観を選好してしまうかは運でしかないし、生物としての人間は論理的に首尾一貫しているわけではないので、無謀な戦いではあるのだがこういう分野も大事だよなと感じられた一冊だった。2024/06/20